※「牛島影山、Tarzamに載る」とリンクしてます


 飛雄のお風呂は早い。
 烏の行水のようだと言ってもピンときていないようで「まあ烏野出身だしな」と的外れの返事が返ってきた。
 ハーフパンツだけを履いて上半身裸のままの飛雄の髪は濡れたままの状態だ。首からタオルをかけているようだけど、毎度の事ながらその濡れた髪の毛はきっと乾くまで放置される。

「髪の毛ちゃんと拭かないと傷むよ」
「すぐに乾くから別にいい」
「綺麗なのにもったいない」

 と、そんなことを定期的に話している気がするけれど飛雄に改善する様子は見られない。それよりも飛雄にとって大切なことは指先の手入れであり、特に爪の手入れはネイルをする女の子よりもしっかりと時間をかけておこなっていると思う。
 今もその状態まま、飛雄の意識は爪の手入れに集中している。
 私はぼうっとしながら飛雄を見つめた。引き締まった筋肉。足りないわけでも多すぎるわけでもない筋肉は、素人の私から見ても綺麗と言う他なかった。
 スポーツ選手だしこんなもんなのかなとは思う。けれど時々雑誌で載っていたりするメンズ芸能人の上半身を思い出してみても飛雄には絶対に敵わないなと思ったりもする。

「どうした」

 食い入るように見つめていた私の視線に気がついた飛雄が言う。
 見慣れているとは言え、こんなことを考えてたなんて知ったら飛雄は呆れたりするだろうか。

「あ、いや相変わらず筋肉が綺麗だなーって。なんかあれだよね、彫刻のモデル? とか出来そう」
「なんだそれ」
「いや私も自分で言っててよくわからない」
「そうかよ。……あ」

 ふと、飛雄が何かを思い出したかのように呟く。

「そういや次のTarzamに載る」
「えっ聞いてない」
「今初めて言った」

 いや、そうじゃなくて。そういうこともっと早く言ってくれたら長くワクワクして過ごせるのに。そう思いながらも次のTarzamの発売日を調べる。いや、もう明後日発売じゃん!

「明後日か……予約しなくても買えるかな……?」
「送ってもらえるからそれ読めばいいだろ?」
「飛雄が出ているTarzamの発行部数に貢献したい」

 私の言葉の真意を飛雄には理解出来ないようで、眉間にシワを寄せて首を傾げながらこちらを見ている。
 爪の手入れは終わったのか、首にかけられたタオルで髪の毛を乱暴に拭くと寝室からウェアを取り出して着た後、飛雄はソファに座る私の隣に腰を下ろした。

「どんな内容なの?」
「プロが教える体幹トレーニング」
「へえ! 面白そう」
「牛島さんと筋トレのポーズとったりした」
「そうなんだ」
「そんときこれもらった」

 そう言って先ほど着たウェアに視線を送る。ああ、そう言えば見たことないから買ったのかなと思ってたけどそういうことだったんだ。

「あとプロテインも」

 心なしかその話をする飛雄は楽しそうだ。
 楽しそうな飛雄を見ると私も楽しくなる。
 
「とうとう飛雄のパーフェクトボディが世に知られてしまうんだね……」
「意味がわからねえ」
「嬉しいような私だけの秘密がなくなっちゃうような複雑な気分だよ」
「別にこんなのいつでも見られるだろ」

 だからそう言うことじゃないんだってば。
 そうしている間に、しっとり濡れていた飛雄の髪の毛は乾いたから「私のヘアオイル塗ってあげようか?」と聞くと「好きにしていい」と返事が帰ってくる。
 飛雄の気が変わらないうちにとヘアオイルを持ってきて短い髪の毛の毛先につけていった。

「これできっとサラサラヘアになるはず」
「興味がねぇ」
「これ高かったのに!」
「そうか。悪い」

 ちっとも悪いなんて思っていないような声でそう言う。まあ別にいいけど。私がやりたくてやっていることだし。

「あー早くTarzam読みたいなあ。発売日楽しみだなあ」

 飛雄のパーフェクトボディが掲載されたTarzamが発売されるまであと2日。
 私はその日を楽しみに待ちながら、きっとまた明日も言うのだろう。髪の毛ちゃんと拭かないと傷むよって。



20201002 えむ


モドル