この人、本当にamamに出るの初めてなんだろうか。ていうか、この特集も初めてじゃないように思わされるほど、ものすごく楽しそうにインタビューに答えてる。笑い声が聞こえるような話題じゃないはずだけど。

簡単に脱げてしまいそうな薄いキャミソールにレースのショーツへと着替えを済ませるカーテンの向こう側では、うっすらと会話が聞こえる。いや、そこそこ聞こえる。

「自分が気持ちよくなりたいだけやったら、勝手に一人でやればええ話やし。あれこれやってみたけど満足させられへんからって次いこ〜って違うことする奴とかおるやないですか。自分かてここがええとかここは今一つやとかそういうんある奴に限って努力もせんと女の子みんな同じとこ攻めたら喜ぶてバカの一つ覚えみたいに思うとるし」

持論が強すぎる。これからこの人に抱かれるような写真を撮るのかと思うと、緊張する。なんか持論が煉瓦の家みたいに頑丈で、ちょっとやそっと息を吹きかけたくらいじゃ変わることはなさそうな。毎年話題になるけど、今年のセックス特集は大丈夫かと不安になる。私のamamデビューは彼にかかってるといっても過言じゃないんだけど。そもそも現役バレーボール選手がamamに載る、しかも今回の特集に選ばれるなんて前代未聞だ。

暫くのインタビューを終えると、ついに宮さんとの対面を果たし、挨拶を交わす。宮さんも私も、羽織ったコートを脱ぐとなかなか露な格好なことはわかっている。今回私が選ばれたのは、初々しさみたいなものが欲しかったという理由だった。ああ、あと。宮さんの金髪が映えるよう、控えめな髪色というのも条件だったみたいだ。事前に他の撮影でカラーの予定がないかも聞かれたんだった。

「なんや変な感じ。初めまして〜言うてすぐ……なぁ?」
「そうですね」
「キレーなモデルさんとこんなん滅多にあるもんやないし、ちゃあんと感じてもらえるように頑張るわ」
「え?」
「……じゃあ早速撮影始めまーす!」

えっと……今なんて?
なんか、ものすごい宣戦布告みたいなものを聞いたような。ベンチコートを脱いだ宮さんは既に上半身裸で、ズボンも履いていなかった。彫刻みたいに綺麗な肉体に、思わず目を背ける。私もプロの自覚はあるものの、広告の撮影ではまずない絡みの写真を撮ることは初めてだった。ムードもなんもないが、服を着た状態から撮影すると無造作にポイポイする可能性がある。映り込まないようにする為には仕方ないらしい。

特にああしろこうしろと指示はなく、宮さんがベッドの端に座り私に手を伸ばす。近づいて手を取ると、向かい合うようにゆっくり膝の上に引っ張られ、乗せられる。整った顔が私の首元に近付き、鼻を寄せる。聞こえるか聞こえないくらいかの声で、ええ匂い、と呟いた。スタッフさんにほんのり付けてもらった香水の香りだと思う。絡みすぎも顔が映りづらいから、その辺の塩梅よろしくとカメラマンさんからアバウトな指示があったのを思い出し、宮さんの顔が離れるのを待った。宮さんからもほんのり良い香りがするなぁ、なんて思いながら。

数秒見つめ合い、キスを交わす。この人、バレーボール選手じゃ勿体ないくらいかっこいい。好きになったとかじゃないけど。漂う雰囲気とか、そういうの。こっちの業界にいてもなんの違和感もない。
ざっくりと胸元のあいたキャミソールの裾から手をするすると入れられると、背中を撫でられ、吐息が漏れる。

「自分、いま違うこと考えとったやろ」

加えて勘もいいなんて、むしろ怖いくらいだ。でもそんなの、もしもマネージャーに言ったら好きになったのかと勘違いされそうで面倒だし。
うん、やっぱり頭の中でぼんやり考えてたことは誰にも口にしないでおこう。


▽ △ ▽ △



スタッフも帰った閉店後の店内、治は昼間に受け取った大きな茶封筒の封を切った。差出人の名はないが、ほぼ確実に侑だ。取り出す前に中を覗きこみ、うわ、と無意識に声が出た。

「北さん、これなんやと思います?」
「……サイズ的には雑誌やな」

自分は見たくもないと茶封筒ごと北に差し出すと受け取った北はなんの躊躇もなく中身を取り出して、ふ、と思わず笑ってしまった。
もちろん中身はamamで、表紙には黒髪の女性を膝に乗せ、色っぽい視線をこちらに向ける侑がでかでかと載っている。怖いもの見たさでカウンター越しにamamを覗いていた治が、ぎょっとした目で北がめくる先のページを見る。身内のこういうのは、どういう気持ちで見ればいいものかと頭をごちゃごちゃさせながら思ったが、だんだん笑いが込み上げてくる。これはあかん、と。
特集ページを一通り見終わった北は、静かに雑誌を閉じて治に返した。

「あとでインタビュー読んだ方がええで。言うてることはまともなんやけど」
「けど?」
「……とにかく読んだらわかる」

読みたいような、読みたくないような。治の葛藤の末は、目の前の北しか知らない。



20201003 たまご


モドル