「ツーブリーズとかは結構いるけどさ、キャツビー派ってあんまりいないよね」
「あー………言われてみれば」

体育終わり、爽快感のある香りを漂わせながらキャツビーのシートを持った手を服の中につっこむ黒尾を見る。ツーブリーズとかって、結構甘い香りとかそういうのが多いけど、そういうんじゃないんだよね、キャツビーって。ていうか服着る前にしなさいよ。絶対着てからやべえ忘れてたってなったんでしょ。わかるわ大体。

「黒尾はなんでキャツビーなの?みんなみたいにキャップ交換とかしたくならないの?ほら、みてごらんよ。山田くんと鈴木さん。あそこ交換してたからキャップと本体が。ほら!」
「……ほーお。さては俺とキャップ交換したいんだろ?気持ちは嬉しいんだけどよ〜俺にはもう彼女がいて」
「いやいやいや。ちょいちょいちょい。全然そんなこと言ってないけど。黒尾に彼女いてもいなくても交換しないけど」

ものすごい真顔で照れるも焦るも何もなく否定すると、黒尾が声をあげて楽しそうに笑った。だろうなだか、俺もだだか知らないけど、多分そんな感じの言葉も含まれた爆笑な気がする。

「で?なんでキャツビー?」
「スカッとするじゃん、匂いが」
「ふーん。まあ、そっか。確かに体育の次の授業中、このへんしばらくキャツビーだわ。爽快感がね。ありますよね。キャツビーはね」
「悪いな〜、このへんキャツビー香らせて」

いつもこんなだ。爽快感重視のキャツビー黒尾が私のピーチの香りの制汗剤をどう思ってるかは知らないけど、何にも言ってこないあたりとか、こういうとこが多分モテる原因のひとつかなとは思う。別にキャツビー黒尾を好きになる予定はこれから全くないけど。

「なー」
「ん?」
「ツーブリーズの種類って、何があんの?甘くねえのもあんの?」
「どうしたどうした。急にツーブリーズに興味持ち始めたけど」
「俺の彼女、他校じゃん」
「言ってたね」
「キャップ交換したら彼氏いんだって思うかね」
「……友達と交換したのかなって可能性もあんじゃないの?」
「ああ、それもあんな」

キャツビー黒尾は腕を組み、少し悩んでいた。まぁ、キャツビーのままでいくことにしたらしい。ツーブリーズ黒尾は語呂が悪いから、私もキャツビーのままでいてほしい。しっくりきすぎて笑える。笑わないけど。



20201005 たまご


モドル