ふらりと立ち寄ったドラッグストアで、鉄朗が手に取ったのはツーブリーズだった。いつもはもっと棚の左にあるキャツビーだったと思ったけど。

「あれ?鉄朗、キャツビーじゃないの?」
「まぁな。ツーブリーズってどう?使い心地とか」
「んー、スプレーよりちゃんとついた感じするし、意外とスッキリするよ。でも爽快感はキャツビーの方があるかな」
「ふーん。なるほどな〜」

結構な種類があるツーブリーズの表記を見ながら匂いを想像してるっぽい鉄朗に視線を向けていると、私がどれを使っているのか確認される。

「えっと……これ!シトラスオレンジ」
「ほー」

適当だか適当じゃないんだか知らないけど、ミントの香りの強そうな青いパッケージを手に取ると、なにやら吟味している様子。
どうしちゃった、うちの鉄朗は。

「キャツビーやめちゃうの?」
「んー?悩み中ー」
「鉄朗のキャツビーの匂い好きなのに」
「……」
「……」
「マジか」
「うん。鉄朗が変えたいならしょうがないけど」

そう。私は鉄朗のキャツビーの匂いが大好きなのだ。慣れてるっていうのもあるかもだけど。どうしても鉄朗が変えたいならしょうがないけど。

「じゃあやめまーす」
「やった〜」
「行くか」
「うん」

特に用もなくなってしまったから、結局なにも買わずにドラッグストアを出た。歩きだして何回か、なんでツーブリーズにしようと思ったのか聞いてみたものの、べつに〜なんて誤魔化されてすぐに諦めた。大事なことなら言ってくれるし、多分大したことじゃないんじゃないかなって思うし。


▽ △ ▽ △



鉄朗の部屋に入り、鞄からツーブリーズを出した。例のシトラスオレンジ。甘くて爽やかで、最近ずっとこれだ。
キャップを外してじんわり汗をかいた首もとに塗ると、麦茶を持ってきた鉄朗が私のツーブリーズとキャップを何度か交互に見て、麦茶をテーブルに置く。

「……ん?キャップの色、それだったっけ?」
「交換したんだよー」
「青じゃん」
「うん。青だね」
「えーっと?ちなみに誰と交換したのかな?」
「あはは、なに?鉄朗どしたの?クラスの友達だよ?女の子」
「……だよな〜〜、青なら俺も好都合だわ」
「……あ!そーゆーこと?いや、どーゆーこと?」

鉄朗ってば、私とキャップ交換したかったの?ん?んー、でもなんで交換できなかったけど嬉しそうなの?
難しい顔をする私を見た鉄朗が、テーブルに乗ったキャップを私の代わりに絞めてくれながら言う。

「青なら私彼氏いますよ〜って言ってる感じじゃね?」



20201005 たまご


モドル