正義なんて、ただのエゴ

ずっと閉じていた目をそっと開くと
光が洪水のように流れ込んできて、
まるで針か何かに刺されているかのような錯覚を起こす。
周りの騒めきが今はとても鬱陶しい。

国見千瑛、15歳。
ボーダーに入隊したばかりのC級隊員。
だが彼女が正隊員に上がる日は近いだろう。
B級に上がる為の4000ポイントまであと約200といったところか。
同期で既に正隊員になった者は少なからずいる。
競走しているわけではないが、早く追いつかなければ。
それだけが妙に彼女を焦らせた。

彼女の入隊理由はただ一つ、家族と友人を守ることだ。
トリオン量がそれなりにあるせいなのか、
地元、仙台にいた頃はかなりの頻度で近隣に門が開いていた。
仙台に住んでいた隊員には申し訳なくなるくらいに。
何度か弟や友人が巻き込まれて怪我をしたこともあり、
彼女は自身のトリオン量に苛立ちを覚えたのだ。

その頃はトリオンのことなど知らず、
自分自身が近界民を呼び寄せる体質だと思っていた。
スカウトされて初めてトリオンやサイドエフェクトのことを知った日は荒れに荒れた。
結局自分のせいではないか、と。

当時の彼女はサイドエフェクトのせいで周囲の人間に気味悪がられ、孤立していた。
そして度重なる門の発生。
そこに事実という名の油を投下すれば、
それは当然燃え上がる。
すぐにボーダー入隊を決め、
大切な存在に危害が及ばぬよう離れることにした。
いつか自分が一人でも戦えるくらい強くなるまでは帰らぬ覚悟で。


「面接で入隊理由聞かれた時なんて答えた?」

「俺?三門市を守るためとか言ってみたけど
この体って痛覚ないし誰でもなれるよな。」

「だよなぁ。正義のヒーローなのにお手軽って感じ。」

「合同訓練も結構簡単だし、すぐにA級になれそうだな。」


近くのC級隊員同士の会話が耳に入り思わず顔を顰める。
馬鹿なことを言うな。
そんな簡単になれるわけがあるか。
心の内で吐き捨て、トリガーを握り締める。
そして脳裏に“彼”の後ろ姿を思い浮かべた。
靡く隊服、トリオン兵を一刀両断した弧月、
そして肩のエンブレム。
国見が知っているA級隊員は正にヒーローなのだ。
お前達が想像するものとは格が違うのだと鼻で笑う。

けれど、“彼”は正義とか綺麗な物の為に戦う人間ではない。
ただ戦うことしか考えてない、要するに戦闘狂だ。
それでも国見にとっては命の恩人であり、
憧れの存在なのである。
いつかあの人に追い付く、それを目標に掲げる程に。
…まあそれは近い未来で後悔する羽目になるのだが今の国見は知らない。



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