私がお嬢様に出会ったのは、彼女がまだ赤ん坊だった頃。
以降、人生の全てを彼女に捧げて参りました。
私はお嬢様のことを、本当の娘か孫の様に大切にしておりました。

そんなお嬢様の元に来た婚約の話は、とてつもなく酷いものでした。
どうして私の大切な娘を、孫を、あのような下劣な男に差し出さなければならないのか。
私の身を裂かれる方が、どれだけ良いと思ったことでしょう。

私は、ある悪魔と契約しました。
お嬢様の婚約を穏便に解消させる代わりに、この一族で代々受け継がれる品を手に入れる手助けをすると。
作戦は成功し、お嬢様と相手の男との婚約は解消。悪魔もその一品を手にしどこかへ去って行きました。
今、一族に在るのは悪魔が用意した偽物でございます。

月日は経ち、私は一族の使用人としての任期を終えました。
まだ働けると年甲斐も無くごねたのですが、休暇を取ってはどうかと旦那様やお嬢様からのお気遣いもあり、結局は長い休暇という名の老後生活に勤しんでおりました。

そして、その時は突然やってきました。
老後のたしなみとして、お嬢様からあるクルーズ客船のチケットを頂きました。大切なお嬢様からのプレゼントですから無下にする訳にもいかず、私はその船に乗り込み、小旅行を楽しみました。
しかし運悪く、その船は航海中に浅瀬に乗り上げ、座礁してしまったのです。
私は助かった人々を沢山見ました。恐らく、そこまでの大事故ではなかったのではないでしょうか。
死人が出たかどうかは分かりません。
しかし私はその時、助からなかったのです。
座礁して、潮水が足首に浸かった時、私の身体は何故かそこからぴくりとも動かなくなってしまいました。
助けを呼ぼうにも声は出ず、また行きかう人々も何故か私の姿だけ見えていないかのように視線が逸れてしまうのです。

それは呪いでした。
一族の大切なものを奪ってしまった私への、みえない何かからの呪いでした。
何かが見えたり聞こえた訳ではありません。その時、直感的にそう思ったのです。
私は悪魔と契約したことで、一族の本当に大切なものを奪ってしまったようです。

それ以降、私の記憶はあなたの記憶の中にあります。
例えあなたが忘れても、脈々と受け継がれていくことでしょう。

道を教えてくれてありがとう。
ある船でパーティをするらしいのだけれど、興味はありませんか?

チケットをどうぞ。

[ back ]