夏の夜の夢
229.(最終話)***
結局、あれから彼に会うことや、彼の夢をみることは、ただの一度もなかった。
大切なものもあるけれど、小さなことで悩んだり、逃げ出したくなる現実の日々。
夢、というだけあって、あの時に見ていた景色は、私の記憶からどんどん薄れてきている。
確かに感じていた風の匂いも、大地の熱も、今では全く思い出せない。
そして今や、彼の顔ですら、曖昧になってきている。
あんなに一緒にいたのに。ねぇ。
またあの夢の日々は来ないものかと、願った日もあった。
しかし、目の前に広がるのは終わりの無い世界ばかり。
夢は、醒めるから夢なのだ。
そう言ったのは、一体誰だっただろう。
それでもふと、瞬くように、鮮明に思い出す時がある。
道端にある夏草。
羽虫たちの声。
透き通る風。
流れる星。
何気ない日々の、片隅に。
あの夏の太陽は、今でも変わらず、私を照らし続けてくれている。
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