第二章
12.***
所々に荷物が散乱する船尾近く。スタッフ以外立ち入り禁止のエリアを、兵太は足早に移動していた。
こんなにこそこそと動き回るなんて何十年ぶりだろうかと思わず笑いが込み上げてくるが、今はそれどころじゃない。見つかったら大目玉だ。
日当たりの悪いここはいくつもの暗い部屋が並んでいる。周囲の乱雑ぶりからしてここは恐らく倉庫が続いているエリアなのだろう。人通りがほとんど無く、物音がどこか遠くから聞こえるのみだ。
その中の一番奥の一室。明かりが付いていないことを確認した兵太は、その扉をそっと開けた。誰も居ないことをもう一度確認し、部屋に入る。
「ここなら安全だぞ」
そう言って布袋に入れていたモンスターボールを四つ、地面に転がした。
ぽんぽんぽん、と次々にボールが割れ、ポケモンの姿が現れた。
そして同時に、何も無い空間からゾロアークの姿が現れる。陽が自分と兵太に掛けていたイリュージョンを解いたのだった。
「ああーどきときしたー! 見つかったらどうなっちゃうかと思ったよ!」
「見つかんねぇよ! 俺のイリュージョン信用してないのか!?」
「新クン大丈夫だよお〜。見つかったら、ボクがそいつの目をくり抜いてあげるからねぇ〜」
「れいめいくん、だいたん!」
「……大胆……ですか?」
「こらぁ坊主ども。あんまり大きな声で騒ぐんじゃねえ。見つかるぞ」
「はーい」
素直に返事をした新は人の姿になり、にこにこと手近な木箱を引き寄せて座った。
「それにしても、陽ってばナイスアイデアだよー! 元々こうする予定だったの?」
「いや、元々っていうか……。あとこれは俺じゃなくて、兵太のアイデアだよ」
そう言って、陽は頬を掻いた。そして一から説明し始める。
元々ミツキの手持ちポケモンは陽だけであり、兵太も智秋もそれぞれ別のトレーナーから借りているポケモンである。
更に兵太においては、自身のモンスターボールでさえこの場に無い。ミツキが彼のモンスターボールを預かっていないのだ。
元の主人であるフウロに許可を得て行動を共にし乗船も容認してもらっているものの、流石に別のモンスターボールに入れる訳にはいかない。それではミツキがポケモン泥棒になってしまう。
「バトルトーナメントで、兵太がモンスターボールから出たり入ったりするように見えてただろ? あれは俺のイリュージョンでそう見せていただけなんだよ」
「そう。それを今回は応用したんだ」
兵太は頷きながら、倉庫内から電池式のランタンを取り出して点けた。
薄暗い倉庫に、小さな明かりが灯った。
その明かりを見ながら、陽が溜め息を吐く。
「トーナメントの前、俺たち必死で練習してたんだぜ? タイミング合わせるの大変でさぁ……」
それを聞いた新は、何かを思い出した様子で、ぽん、と自分の手を合わせた。
「あー。だからあの時、船の端っこにいるーとか変なこと言ってたんだね。練習してたんだ」
「そうそう。案外、ミツキと兵太の息が合わなくってさぁ……」
「それに加え、今回の強制ポケモンセンター行きときたもんだ。たまったもんじゃねぇよ……。陸上ならまだしも、船内の小さなポケモンセンターに原型のウォーグルを預けるなんてマナーのなってないこと、ミツキ嬢にさせる訳いかねえよ」
だからこそ必死で打開策を探したのだ、と兵太は話した。
その結果はこうだ。
まず自分達はポケモンセンターには預けられず別の場所で待機し、また簡易ポケモンセンターにはダミーとして、空のモンスターボールを一時的に預ける。
ミツキと話し合った結果、空のモンスターボールだとばれない様に智秋だけは係員の目の前でモンスターボールに入れて預け、その後、陽がイリュージョンを使い空のモンスターボールと共に回収。空のモンスターボールは預けたままだと回復する際にばれるだろうとのことで、あえて紛れさせたりはしなかった。
ミツキとはこの後二十時にディナー会場から出るよう約束をした。その際にダミーのモンスターボールを再び紛れさせ、それを係員に持たせてミツキへ渡させるのだ。
「いやぁー、でも悪いね! 俺たちまで一緒に隠れさせてもらっちゃってさ!」
「新それ、白々しいっていうんだぞ」
「だって気になるじゃん! あんなに必死でひそひそ話されたらさぁ!」
そう。この即興の作戦はゆの達の目を凌ぐ暇さえ無く練られたものであり、すぐに新や黎明に怪しまれ、あっという間に明かされてしまったのである。
そして一緒に隠れていたいという彼等の要求により、こうして行動を共にすることになったのだ。
「まあ許してやれよ陽。第一、長時間ボールの中で待たせられるなんて暇だろ。一緒に待っていようじゃねえか」
そんな兵太の一声により、新と陽の口論は一先ず制止した。
しばらくいがみ合っていた二匹だったが、やがてそれも終わった。
海風により小さな窓が揺れる音がした後、大人しかった黎明がふと、口を開いた。
「ねぇ〜え。待ってる間、ずぅ〜っとここにいるつもりなのお〜?」
その場に居た全員が、黎明に視線を向けた。
そして彼は、にたぁ、と笑って言った。
「そんなのつまんないからあ、ボクはちょぉぉぉおっと外に出て、遊んでくるねぇ〜!」
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