これは、いつかどこかで見た光景とまったく同じものだった。だがら、彼女は目の前の人物が次にどう行動するのかを知っていた。

 少女の前に立つ彼は細長い棒切れを持った手を上げ、彼の後ろで控えている男と同じように真っ直ぐその棒切れの先端を少女に向けた。彼の表情は普段の様子からは考えられない程冷たく、怒りや軽蔑といった感情を孕んだ鋭い眼は逸らされる事なく真っ直ぐ少女の目を射抜いていた。

 ああ、ほら、やっぱりそうだ。
 少女は思った通りの彼の行動に目を伏せ、それからふっと自傷気味に笑い、手に持っている物を強く握りしめた。その存在を強く感じ取ろうとするかのように。

 少女は全てを知っていた。そして今全てを理解したのだ。だからこそ自分が惨めになった。こんな事になるんだったら全てを投げ出してしまいたいと泣き叫び、全てを放棄してしまいたかった。

「―――」

 目の前の彼が私の名を紡ぐ。その声音は低く、どういう事なのか全てを話せと暗に語っている。その彼の失望したような眼が、厳しい雰囲気が身心ともに既にボロボロな少女を更に傷つける。まさか見知った相手から敵意を向けられるのがこんなにも辛いものだとは思わなかった。

 今更私が弁明しようと何を言おうとも彼はきっと信じようとしないだろう。表面上では私の話を真摯に聞き、私を受け入れる格好をするだろう。そう、格好だけは。その裏では私の言葉は聞き流し敵意しかない。だから、彼は私の話を信じない。それが彼の下した決断なのだから。

 彼がその選択をするのならば、私も今ここで決断しなければならない。選ぶ道は、何をしなければならないのかはもう既に理解している。後は行動に移すだけ。
 ゆっくりと目を閉じて覚悟を決めた。

 まるで懺悔のような私の様子を見て目の前の彼の厳しい雰囲気が一瞬だけ和らいだの感じる。ああ、

「…後は頼みました」

 俯いていた顔を上げ、今度は私が真っ直ぐ彼の目を射抜く。そこには眉間に皺を寄せ、思った通りの困惑した彼の顔があり、私はふっと吐息を漏らし、笑う。

 そして、駆ける。目の前の彼に向かって手を伸ばして。



後書き

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