彼と私と旅人

いつも通り監獄内を巡回し、医務室で重症患者の処置をしていることはうちに、あっという間に退勤時間になっていた。彼に見つからぬうちに帰宅しようとすると、いつもは聞かない賑やかな声が聞こえてきた。恐らく例の旅人だろう。
仕事で疲れているのに、余計な首を突っ込んでトラブルに巻き込まれるのは勘弁だ。さっと横を通り過ぎようとすると、金色の髪をした少年に声をかけられる。

「あの、ちょっといいですか」
「…私に何か?」
「あなたの名前は?」
「リゼンよ」
「リゼンさん…どこかで聞いたような…ちょっとお話聞いてもいいですか?
「…気のせいじゃないかしら?私はあなたの名前も、顔も知らないから。…ナンパならお断りよ」
「ナンパじゃないぞ!なんだお前、少しくらい話してくれたっていいだろ!」

横にいる例の精霊のようなものが騒ぎ立てる。こんな状況は防ぎたかったのに。回り道をしてでも関わらないようにした方がよかったな……どう抜け出すか頭を悩ませていると、肩に大きな手のひらが乗せられ、軽く抱き寄せられる。

「彼女は出張医だ。もう退勤の時間だから、家に帰してやってくれないか。すまないがナンパも禁止だ」
「そうだったのか…悪いな、リゼン!また今度話そうぜ!」
「……機会があれば」

そうあしらうとすでに彼らはリオセスリの話に聞き入っているようだ。彼ならば、私も納得のいく範囲で私のことを話してくれるだろう。
帰宅してから少し経って、寝る用意も済ませた頃に、彼に連絡をいれる。

「やあ、リゼン。あんたから連絡をくれるなんて嬉しいぜ」
「何の件なのかわかってるでしょ。…帰宅の時、引き剥がしてくれてありがと。本当に困ってたの」
「ああ、そんなことか。別に気にすることはない。…それに万が一ナンパだったら、しっかり圧をかけなくちゃあいけないからな」

静かに圧のある声での返事に、少し驚く。この男は、失礼かもしれないが愛やら恋やらに関してこんなに熱い男だとは思っていなかったからだ。事実、付き合いが長い私もそんなところは見たことがない。

「…あんまりそう表に出すと、また私が狙われるの。ただでさえ狙われてるのに、さらに狙われることになるでしょ。これまでよりも襲われる頻度が上がるなんて、勘弁して」
「はは、俺がそんなことさせないから安心してくれて構わないぜ」
「監獄長がどうやってずっと守るって言うの?はあ、もういいから。次会うのは明日は休みだから次は明々後日か。おやすみ」
「ああ、おやすみ。…あんなに二日も会えないと思うと、頑張り甲斐がないな」
「はあ?…仕方ないわね。暇な時に電話くらいはしてあげる」
「ああ、頼むよ。あんたがいないだけでここを飛び出したくなっちまうんだ」
「しっかりしてよ、公爵様」

軽口を叩いて電話を切る。彼の言葉を噛み締め、どうにも気恥ずかしくなり、部屋の電気を消した。

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