私と仕事と電話

久々にゆっくりとした休日を過ごした翌日。最近は出張が多かったため久々となる自分の医院を診療を開始する。午前9時に扉の前の看板を受付中に変更すると、後ろから声がかかる。

「あっ、先生!」
「あら、ラインさん。お久しぶり」
「ほんとに久しぶりだよ〜!今日は一日開けてるのかい?」
「ええ、その予定」
「そうか、それじゃあ用意してからまた来るよ!」

近くの村で暮らしている彼は、私の医院の常連だ。持病持ちではあるが、月に二度ほど通えば大丈夫、そんな感じの患者さんが多い。ただ今回は間が空いた。きっと今までで5本の指に入る程混むだろう。
入ってすぐの受付に腰掛けて待っていると、入り口のドアが開かれる。先ほどの男性と共に3人、患者が訪れる。

「あら、ルイさんにエリザさん…ロマちゃんまで。ごめんなさい、随分間が空いてしまって…」
「いいんですよ!きっとまた公爵から依頼が来てたんでしょう?メロピデ要塞はフォンテーヌに必要な場所だから仕方ないです」
「ありがとう。じゃあ順番に診ていくわね」

そこからは忙しい一日だった。夕方まで患者さんを診て、ようやく人がいなくなり病院を閉める。
自宅に戻り白衣を脱ぎ荷物を置くと、丁度その横にリオセスリへ贈る予定の紅茶缶が置いてある。それを見て、ふと彼のことが気になった。暇な時に電話くらいしてあげる、とは言ったものの、暇な時がなく一回も連絡をしていなかった。あんなことを言ってはいるが、きっとこんな些細なことで業務に支障はきたしていないだろう。そんな男ではないのを私はよく知っている。
それは別として、明日には会えるがまあかけてやってもいいか、と電話を取る。着替えながら電話をすると、少し待った後に彼の声が聞こえた。

「メロピデ要塞だ。要件は?」
「お疲れ様、リオセスリ。今日はどうだった?」
「リゼンか」

私だと分かるや否や、業務用の硬い声からいつも私と話す時の軽いトーンに切り替わる。
「本当にくれるとは思ってなかったぜ」
「仕事が終わって暇になったからね。そっちは今日も忙しいんでしょ」
「ああ、今日も色々なことがあってな…主に旅人関連で」
「彼ね…私はあまり関わりたくないんだけど、あの様子だと無理そうね、好奇心旺盛って感じ」
「そうだな…露払いが必要であれば俺が同行するが?」
「私より忙しい人間が何言ってんの。でも困ったら呼ばせてもらうわ」
「ああ、勿論。あんたが呼ぶなら囚人の喧嘩だって放り出して行くさ」
「あんたねえ……」
「はは、明日はこっちに来る日だろ?会えるのを楽しみにしてるぜ」
「…そうね。じゃあ、遅刻しないように早く寝ることにするわ」
「ああ、おやすみ」

電話を切り、一通り身支度を済ませて寝床に入る。眠りにつこうと目を閉じるも、彼の声が耳から離れない。早く眠りにつかなくては。

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