私は彼と距離を置きたい

彼、リオセスリとは長い付き合いになる。
彼が監獄長になる少し前、まだ開業医になる前は水の下で駐在医をしていた。自分の医院を持つにはまだまだ経験が足りなかったので、どうせなら忙しい場所で、とメロピデ要塞で勤務していたのだ。

当時、日々特別許可券を得る為に戦い続け、その度に傷ついていく彼を治療していた。ボロボロの服を着て、加えて戦闘のせいでボロボロになっていく彼を見て、医者として随分と心配をしたものだ。
当時の私は、そんな彼に説教ついでに気遣うような言葉をかけていたのだ。まあ、そうすれば自分の仕事も減るかと思って、用がなくとも時間が合えば軽率に声をかけたりもした。
それは当時の彼にとっての荒れた日々の中でどうやら助けになっていたらしい。それを彼から聞いた時は意外だと思い、まあやって良かった、と自分の過去の医者としての行いを褒めたりもした。
そして、私を外部の者であり、普段獄中で無闇矢鱈に誰かに話したりしない者だ、としっかりと見極めた上で、賢い彼は私に心の内を話した。
彼が今の上司やこの監獄を変えようとしていること。それに向けてもっと闘わなければいけないこと。絶対に諦めるつもりはないということ。またこれからも話をこうして聞いてほしい、ということ。
会話をするくらいどうと言うことはないので、最後の話には軽く了承をした。

「なあリゼン、俺がここを変えるまで、絶対にここにいてくれ。あんたに見届けてほしい。俺がここにいる限り、ずっとこの要塞にいてくれ」

そんな言葉に、深く考えず私は頷いた。
そしてその約束は、彼が今現在、公爵という立場についても継続されている。現在、開業医として小さな医院を構えてからも…最低でも週に1回。継続的に出張医として訪れているが、その度に彼の部屋に呼び出されては紅茶を嗜みながら昼近くまで話をする。こんな待遇を、私は望んでいない。
これでは職務怠慢となってしまう、と抗議すれば『ここでは俺がいうことが絶対だ。それに、約束してくれただろう?』などと職権濫用のみならず、昔の話を盾にされては、その言葉に従いまた温かいカップに口をつけるほかないのだ。

また以前、彼は外部から来る人間全てにこんな風に部屋に招いて話をするのか、と看護師長に尋ねたら「ふふ、あなただけよ」となんだか嬉しそうに返されたことがある。
それでも、最初は約束があるからなのか、と思っていたがその後「あんたは俺にとって特別な存在だ」だの「ずっとここにいてくれ」だなんて話もされれば、彼の自分へ向ける思いは、薄々わかってくる。だが、

私は彼と距離を置きたい。

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