「よぉリゼンさん。あんた最近よくここに来てんなぁ、随分監獄長に可愛がられてるみてぇだな」
「…別にそんなことないわよ、ただ付き合いが長いから、話し相手として呼ばれてるだけ」
「いやいや、そうは見えねえよ。あの人があそこに人を招くことなんてそうそうない」
「…で?何が言いたいのかしら。あなたたちと違って忙しいの」
「…やっぱあんた、落とし甲斐がありそうな女だなあ。他の奴らに聞いたぜ、あんたを人質にでも取りゃあ公爵を引き摺り落とせる、ってな」
「そんな言葉を信じるなんて、いかにも囚人って感じね。ここに収監された意味がわかる気がするわ」
相手にする意味もないだろう、と判断し荒っぽい囚人の言葉を流す。この囚人は『後者』だろう。
私の言葉に悔しそうに顔を歪める男を見ながら、溜め息を吐く。すると、それが気に障ったのか声を張り上げてこちらを強く睨め付け、激情を向ける。
「お前みたいな女医、簡単に捩じ伏せられんだよ!!!とっ捕まえてボロボロにしてアイツの前に差し出してやる!!!!」
囚人の手が私に迫る。
こういう男は真っ直ぐ向かってくるので非常にわかりやすく、 避けやすい。
隙を見て躱し、即座に白衣を脱ぎ、勢いをつけて翻し、相手の目線を遮る。普段腰裏に隠し持っているナイフを取り出し、素早く相手の脚に突き立てる。
「ゔあっ…なんだ!?どこから………」
「あなた、それじゃあ地下格闘技場で勝てるのかしら?」
売り言葉を口にした瞬間、思ったよりも素早い拳が飛んできて頬に衝撃が走る。なんとか耐え、殴った後の隙を狙い鳩尾に蹴りを入れ馬乗りになる。
悔しそうな顔を見ながら、ああ、また怪我人が増えた、なんてことを考える。
そして金属の床を蹴る硬い金属音がこちらへ近づいてくる。ああ、彼が来る…と少し顔を顰めてしまったが、仕方ない。焦った顔を覗かせたのは、予想通りリオセスリだった。
「リゼン、無事か」
「ええ、まあ。早く拘束してくれる?」
「リゼン、」
「ああもう、早くして。『監獄長』」
強い口調で彼を急かし、ようやく手錠を嵌めた彼を見る。全くめんどくさい。彼と関わらなければこんなこともなくなるのに。なんて思ってしまう。
こうして、彼のせいで、悪い意味で囚人との距離が近づいている。