彼は私と近づきたがる

「もう平気。」

モロに拳を喰らってしまった頬を、シグウィンに手当てをしてもらいながら目の前にいる男を見上げる。

「すまない。すぐに駆けつけられなかった」
「大したことないや。というか、仕方ないでしょ。あなた、山程仕事あるんだから…今もこんなとこにいる場合じゃないでしょ。もう戻っていいよ」

シグウィンも同じ気持ちなようで、もう大丈夫よ!とリオセスリを見上げる。何も言わず、じっとこちらを見つめてくる彼の視線に居心地の悪さを感じ、スッと視線を逸らす。すると彼は拳を握り込み、踵を返す。

「何かあれば、また声をかけてくれ。執務室にいる」
「はいはい」

執務室に戻っていく彼の背中を見ながら、ようやく一息吐いた。
彼には大したことないと告げたが、実の所かなり派手に拳を喰らったので跡が残ってしまっている。彼に見つかればしつこく突っかかってくることが容易に想像できた為、シグウィンには先ずガーゼを貼って隠してもらった。

「シグウィン、ありがとう」
「ううん、大丈夫よ!痕が残っていたら、きっと彼心配するものね」
「多分大袈裟に騒ぐよ。ほんとにしつこいんだから」

きちんと丁寧に手当してもらった後は、その後はシグウィンと一緒に過ごすことにした。襲撃に遭ったばかりだ、流石に大人しくしていた方がいい。

仕事を終え、夕方になって要塞のエレベーターへ足を運ぶ。すると後ろから声がかかる

「リゼン」
「…どうしたの、リオセスリ」
「いや、今日はあんなことがあったろう?家まで送っていこう」

きっと職務の間を縫って抜けてきたのだろう。医務室ではさっさと追い返してしまったしこのくらいはいいか、と手を取る。幸い医院と自宅は兼ねているため、そう遠くはない。

地上に戻ると、悪いことは続くようで夕立が降っていた。彼は待っていてくれ、と私に告げると止める間もなく近くの雑貨屋へ向かってしまう。少しして帰ってくると大きめの黒い傘を手にしていた。

「怪我人、それも女性を雨に濡れさせる訳にはいかないだろう」
「…そう」

私の態度にも嫌な顔一つ見せずに傘を広げ、手を取る。一つの傘しか買っていないところ、二人で一つの傘、ということだろう…渋々彼に肩を寄せる。
だが、彼は無闇に肩を接することはせず、且つ私が傘からはみ出さないようにしているのは彼の肩が私よりも濡れていることで明らかだ。
よく誤解されがちだが、彼の経歴に反して、この男は非常に紳士的だ。どんな女子供にも、怖がられたとしても紳士的に接する。
男性であれむやみやたらに冷たい態度をとったりはしない。そんなところも、人間として尊敬できてしまうのだ。


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