彼は私を重んじる

雨の中、フォンテーヌからでて医院のある郊外へと向かう。なんとなくわかってはいたが、彼は肩も上着も濡らしながら私の家まで送っていくようだ。
私の家が見えてきたところで突然強風が吹く。あまりにも突然の強い風にリオセスリも対応できなかったようで、煽られて傘が飛ばされてしまう。

「悪い、拾ってくるから待っていてくれ」
「、もう家近いから大丈、ッ」
「リゼン!」
「大丈夫、だから」

あまりにも強い雨風に視界が悪く足を取られる。傘を捨て置いてまで私に駆け寄り、私に自分の上着をかけ、肩を抱く。二人して雨風に降られ、まともに歩くことも難しかった。加えて今さっきの転倒で掌底と膝頭を擦りむいたようで雨が染みる。

「….悪いんだけど、家まで走って。場所わかるでしょ?」
「わかった、少し我慢してくれ」
「え?わ、ッ」

自宅まで走ろうと立ちあがろうとしたところ、上着ごと彼に抱えあげられる。突然のことで驚きすぎて抵抗する隙すらなかった。
流石というべきか、彼の俊足のおかげですぐに自宅まで辿り着く。鍵の場所を問われ腰のポーチにある、と告げると器用に私を抱えたまま取り出す。そして扉を開けるとソファに座らせ、タオルは、と問う。場所を告げればすぐに大きめのタオルを手にし、手際よく私の上着を脱がせ、髪から順に水分を拭き取っていく。

「悪い、俺が傘を飛ばしちまったから」
「いや、あれは仕方ない…っていうか、自分で拭けるよ、あなたの方が濡れてる、早く拭かなきゃ」
「いや、俺はいい」
「ダメだって」

お互い譲らなかった結果、ソファに座ってお互いを拭き合うと言う妙な図が始まってしまった。
そして彼のタオルが頬のガーゼに触れ、まずい、と思った次の瞬間には鈍い痛みと共にガーゼが捲れてしまっていた。
しばらくの沈黙の後、彼の指が頬を撫でた。何か言おうと思い彼の顔を見ようとするも、タオルで隠れていて見えない。そしてタオルを退けようとした瞬間に、強く抱きしめられ、小さく、一言告げられた。

「すまない」
「……リオセスリ、」
「……救急箱はどこだ」
「あ、白い棚の1番上」

その後、彼は無駄は言葉は発さずに、ただひたすら無表情で懇切丁寧に手当をした。掌底と膝頭、そして頬。壊れ物に触れるかのように、丁寧に、丁寧に。そして私に向き合い、暗い声色で静かに語る。

「あんたが囚人を組み敷いた後、ちゃんと怪我を確認すればよかった。その時は無理でも、医務室に行けばよかった。
だから帰りくらいはと思って、こうして送った。だが、結局あんたに怪我をさせただけだった」

軽く頭を下げ、あんたを軽んじた、と謝罪の言葉を述べる。
その言葉にそんな事ない、と告げたかった。でも私は彼の気持ちに応えられない。そんなことを言う資格はない。

そして彼は、私の家を去っていった。

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