組織の仕事も、アルバイトもなく暇を持て余していた日の午後。特に面白い番組をやっていたわけではないけど、ボーッとテレビを見ていた時だった。来客を告げるインターホンが鳴ったのは。

誰だろう、とインターホンのモニターを見るとそこに映っていたのは、

「バーボン?」

俯いているらしく、表情は見えない。外で待ち伏せはよくあるが、今まで自宅に連絡もなしに来ることなんてなかった。何か、急用だろうか?

とりあえずインターホン越しにバーボンに声をかけて、エントランスの自動ドアを開けてあげる。エントランスからこの部屋はそんなに遠くないし多分2、3分もしないで来る筈。
予想通り、すぐに部屋のチャイムが鳴る。一応ドアスコープで外を確認してから、玄関扉を開けた。

「バーボン、どうかしーーー」

玄関扉を少し開けた瞬間。バーボンの手が扉を掴んで勢いよく、玄関扉を大きく開けた。いきなり開けられて、バランスを崩してよろめいてしまう。

「きゃっ」

ぽすん、と気づいたらバーボンの腕の中。びっくり、した。

「ちょ…っと!いきなり何するのっ?!」

顔を上げて、睨みつけながら怒鳴れば。
酷く熱のこもった、ギラギラとした目をしたバーボンと視線があった。

今まで見たことのないバーボンの目に、ゾクリと体が震える。

「バ、バーボン…?」

急に目の前にいるバーボンが怖くなって一歩後ろに下がる。
逃げなきゃ、と思ったのと同時にバーボンの右腕が私の方へと伸びてきて、手が後頭部へと回されるとあっという間にバーボンの腕の中に引き寄せられて。あ、と声を小さく零したのが最後。
その後の言葉が続くことはなくて。唇は、バーボンのキスで塞がれてしまった。

バーボンの後ろで、バタンと大きな音をたてながら玄関扉が閉じた。

「ん、んん〜〜っ!」

バーボンの右手は後頭部をがっちりと掴んでいて、左手はいつの間にか腰に回ってしっかりと抱き込まれている。
もがいて離れようとするけど、バーボンの拘束する腕の力は強くて、すぐに離れられそうにはない。もがいている間にもキスはどんどん深くなっていって。

「ん、…バー、ボン、ふぁっ」

息継ぎの間に口を少し開いた途端に舌が進入してきて、逃げる間もなく絡めとられる。
キスしか、してないのに。足に力が入らなくなっていく。頭の中が熱に侵されたようにボーッとしていく。
終わらないキスにいつの間にか、バーボンのキスが堪らなく、心地よく感じ始めてしまっていた。私を求めている、という感情を隠していないバーボンのキスは『愛されている』と強く、実感出来て心が満たされていく。

こんな心地いいキスは、いつ以来だろう?

バーボンの背に腕を回して少しだけ抱き締め返せば、ようやくバーボンの唇から解放された。
離れた唇に物足りない、なんて思ってしまうなんて。

「………バーボン…?」

小さな声で呼べば、優しく頬を撫でながらコツンと額と額が合わさる。触れそうで触れられない距離が、何だかもどかしかった。

「怒らないんですか?」
「…え?」
「キスしたこと。いつも、怒るのに」
「………」

頬を撫でていた手が唇まで降りてきて、親指で唇をなぞられる。唇をなぞられる感覚に、体の奥がキュンとして、身体中にゾクゾクっとした感覚が駆け巡る。

「コードネーム」
「………ん?」

目元に、鼻先に、唇の端に。たくさんの触れるだけのキスが降ってくる。

「もっとキス、したい?」
「………ん」
「誰と?」
「え…?」
「コードネームは、『誰と』キスがしたいんです?」

誰と?今、私がキスしたいのは。キスされたいのは。

「言って?コードネーム、」
「わ、たしはーーー、

バーボンと、キスしたい



背中に回していた腕を離して、今度は首元に回す。少しだけ背伸びをしながら初めて、私からバーボンに、キスをした。

prev | top | next

ALICE+