蝉も鳴き始めた初夏。今年初めての花火大会に心が躍る。
安室さんには言わなかったけど、浴衣を着てきたけど…安室さん、かわいいって言ってくれるかな?楽しみな気持ちと、緊張とで心臓がドキドキうるさい。
待ち合わせ場所は、花火大会が行われる街の最寄駅。持っていた籠巾着からスマホを取り出して時間を確認する。時間は待ち合わせ時刻の20分前。早く来て欲しいような、そうでないような。わくわく、ドキドキしている。
周りでは、浴衣を着た女の人や男の人をちらほら見かける。時計を気にしてたり、電話をしていたり。彼氏や彼女、友達と合流している人たちもいた。
みんな、花火大会に行くのかな?なんて、当たり前の事を考えていた時ーーー、

「名前!!」

私の名前を呼ぶ大好きな声が聞こえた。

「安室さん」
「ごめん、待たせたかな?」

声の聞こえて来た方を向くと、Tシャツの上に羽織った白のシャツの裾をはためかせながら、安室さんが小走りに近づいて来た。

「ううん、大丈夫。待ってないよ」
「早く着いたなら電話くれれば、もっと車飛ばしてきたのに」
「危ないでしょ、もう。それに全然待ってないから。安室さんだって来るの早いじゃない、まだ約束の15分前だよ?」

だんだんと蒸し暑くなり始めて、夕方で陽が傾き始めているとはいえ、走って来た安室さんは暑いのか、額の汗を腕で拭っていて。持っていたスマホを籠巾着に仕舞った後にハンカチを取り出して、彼の額に手を伸ばした。
その私の行動に、私が何をしようと分かったのか、安室さんが少し身を屈めてくれる。すんなりと届いた安室さんの額に浮かぶ汗を拭いてあげる。

思ったよりも近づいた顔と顔に、心臓がドキドキしているのは、内緒。

「女性を待たせるわけにはいかないですからね。まぁ…今日は名前の方が早かったですけどね」
「えへへ、花火大会楽しみで」
「そうですか…あ、ありがとうございます」

汗を拭き終わり、手を離すと安室さんは屈めていた体を元に戻す。
心臓の音、気づかれなかったかな?

「いーえ」
「じゃあ、行きますか」
「うん!」

大きく頷いた私に、安室さんが笑って。そして二人で並んで花火大会の会場まで歩き始めた。
そういえば、浴衣のこと、何も言われなかったな。
気づいてない?いや、安室さんにそれはありえない。…多分。
もしかして、似合ってない、とか?いや、店員さんも、お母さんも。蘭や園子だって、似合うって言ってくれたし、だから大丈夫。な筈。だけど何も言ってくれなかった安室さんに不安な気持ちが膨らみ、モヤモヤとしていた時。安室さんが、

「あ」
「、え?」
「つい、タイミング逃して言い忘れてました」
「……何を?」

ちらりと、すぐ横の安室さんを上目遣いで見上げれば、優しい顔で笑いかけられて。

「浴衣、凄く似合ってます。可愛い」
「っっ」

顔を真っ赤にして俯いた私に、安室さんがクスクスと笑い、グイッと私の腕を掴んで自分の方に優しく引き寄せて。
耳元で、一言。やっぱり可愛い、と囁いた。

煌めく世界ときみ


title.確かに恋だった
2016.06.19
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