今日、大好きな人のお嫁さんになる。

ウェディングドレスに着替えて、ヘアメイクもばっちり。
鏡の中の私はきっと、今世界中で誰よりも一番幸せそうな顔で笑っている。

式の開始まではまだ少し時間がある。何度も時計を確認してはソワソワしてる。この場に誰かいたらきっと、落ち着きがないって笑われている、筈。

もう何度目か分からない、時計で時間を確認した時。コンコンと誰かが部屋の扉をノックした。
あれ?まだ時間じゃない筈。蘭ちゃん達、はさっきまで来てくれてたし。零君は、「名前のウェディングドレス姿は本番の楽しみにとっておくよ」って言って、ドレス選びの最中も、絶対に試着姿は見てなかった。

じゃあ、誰だろう?
そう思った時、扉越しに聞こえてきた声は、

「名前、今大丈夫か?」
「!赤井さんっ?」

聞こえてきた声に驚く。だけど私が聞き間違える筈ない。
椅子から腰を上げて、気休めにもならないかもしれないけどウェディングドレスの裾を上げて扉に駆け寄る。
勢いよく扉を開けると、そこには少し驚いたような顔をした赤井さんが立っていた。

「赤井、さん?」
「ふっ。俺以外の誰に見えるっていうんだ?」
「だって、アメリカじゃ?ジョディさんもどうしても外せない仕事があるって」
「あぁ、まぁ…少し、無理をしたってところだ」
「え?」
「それよりも中には入れてくれないのか?」
「!あはは、びっくりしてつい。ごめんなさい」

体を横にずらして、赤井さんを部屋の中へと招き入れる。扉が閉まれば、二人っきりで。何だか急に居心地が悪くなった、ようなそんな気がして何て話しかければいいのか分からなくなってしまった。

「少し…」
「え?」
「少し、驚いた。まさか…組織を壊滅させてこんなすぐにお前と降谷君が結婚するとは思わなかった」

窓辺まで行って背を向けて、こっちを見ないまま赤井さんから喋り始めてくれる。

「それ、皆に言われたわ。まだ、後始末とか色々バタバタしてるものね。でも、零君凄く律儀だから。約束守ってくれたの」
「約束?」
「ふふ。零君が全部終わって無事に帰ってきたら、私を零君のお嫁さんにしてほしい、って」
「……そうか、そうだったんだな」
「でも私もまさかこんなに早く約束叶えてくれるなんて思ってもなかったんだけどね。零君、本当に忙しかったから」
「きっと彼も、早くお前と一緒になりたかったんだろう。彼はお前のことになると多少の無茶も厭わないからな」
「…あんまり無茶ばっかだと、いつ倒れるんじゃないかって、心臓がもたないけどね」
「………愛されているな、降谷君は」

最後の方の言葉は小さくな独り言みたいで、よく聞き取れなかった。
それを私が聞き返えそうとするよりも早く赤井さんが私の方を振り返る。

振り返った赤井さんが一瞬だけ見せた表情はなんだが、昔。『最後』に見た彼の表情に少し似ていたような気がした。

「綺麗だ。ウェディングドレスよく似合っている」
「っっ」

赤井さんの言葉に顔が赤く染まる。急にそんな風に言われて凄く照れる。

「あ、赤井さんに褒められると、何だか照れますね」
「仕方ない、本当のことなんだからな」
「ふふ、ありがとうございます」
「………もし、」

何かを言おうとして、途中で止めた赤井さんを首を傾げながら見つめる。

「赤井さん?」
「いや…一つ聞いてもいいか?」
「?うん、何?」
「名前今、幸せか?」

その言葉に笑顔を添えて、即答に近い形で答える。

「えぇ、とっても!」
「そうか…そうか。なあ、」
「もー、まだ何かあるの?」

そして、赤井さんが言った言葉に返した私の笑顔はきっと。

「結婚、おめでとう」

今までで一番、幸せに満ち溢れた笑顔だ。

幸せが一つ増えただけ


title.金星
2016.09.12
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