夏。

そう世間は夏。
ぢりぢりと肌を焼く日差しに、終始全身にまとわりつく熱気。

そんな日に世間の若者達は、やれ旅行だキャンプだやれ海だプールだ夏フェスだ。
人生の余暇と謳われる、大学生活の夏休み。
彼等はここぞとばかりに、日々のバイトで貯めに貯めた金をかつての船成金のように掻っ捌く。

世間は、そういう連中をリア充≠ニ呼ぶ。
そう、リアルに充実している者達と。


だがしかし。
ここで私は意義を申し立てたい。



ここで言う、リア充の定義とは果たして如何なるものなのか?

バイトで貯めた金を飲み会やらサークル合宿やら、旅行やら美味しいパンケーキやらに使うことがリア充だろうか?


否!!!!!!




「冷房の効いた部屋でTL警備しながら、ライトノベルやコミック、果てには公式画集を読み荒らし!ソシャゲのイベントに勤しみながら課金課金課金っ!!!夜通し録り溜めたアニメとレンタルしてきた完結アニメを徹夜して両刀!!学校ないから朝起きる必要なしっ!!!これこそヲタクのリア充!!!」

「やかましいこのクソヲタが。」

「ぐふっ、」


声高らからに身を乗り出してきた向かいに座るバカを殴れば、パァンっ!!!と小気味いい音が響いた。


「ひどいわっ!!!親にもぶたれたことないのに!!!!!!」

「知ってるよ。同じ親だからな。」

「乙女の顔に傷が付いたらお嫁に行けない。」

「心配するな杞憂に終わる。お前みたいなクソヲタには旦那どころか彼氏もできな……って、今話してるのはそんなことじゃない。お前これっ!!!ケータイのご利用明細っ!!!諭吉三枚!!三万って!!!」

「先月の、七夕限定ガチャのっ、推しが愛しすぎてっ!!!どうしても欲しくてっ!!!貯めに貯めてた石全部注ぎ込んだけど全然出てきてくれないからついっ、つい手が、購入ボタンに手がァああっ!!!!!推しが出るまで10連ぶん回した結果がソレです。我が人生に一片の悔いなし!!!」

「悔いありまくりだわふざけんなこの重課金厨がっ!!!!!!」

「うぐっ、」



今度はチョップを御見舞すればスッパーーンッ!!!と小気味いい音が鳴る。こんだけいい音がなるのだ。こいつの頭はきっと何も入っていないのだろう。中身は空洞だ。空っぽだ。

「めちゃ痛い。真面目に児童相談所に相談しようかしら。あれ?実兄に暴力を振るわれてる場合もDVに入る?てか成人してても児童相談所って相談できる?」なんて頭を抑えながら言うバカに思わず顔の筋肉が引き攣る。落ち着け。落ち着け俺。このバカは逆上したら終わりだ。逆に煽って楽しむゲス女だ。それはお前が一番よく知ってるはずだ。




「お前、課金分は自分で払えよ?生活費からはいつもの通信費分しか出さねぇからな?」

「えぇっ!!!なぜ!!!」

「いや当たり前だろっ!!逆になぜいけると思った!!!」

「えぇーっ、だって兄さんだって買ってるじゃん。ライトノベルフェアの先着食器セットとか、会場イベ限定のマグカップやらランチョンマットやら果てには掛け時計まで。」

「おっ、れのはいいだろ・・・・・・。実用品なんだから、別に自分だけが楽しむモノを買ってるわけじゃないんだし・・・・・・」

「は、私はアイマス茶碗よりi7茶碗でご飯を食べたい。」

「ぐぅっ、」

「それに兄さん、私の立場になって考えてごらんよ。期間限定のイベント限定ガチャ、推しがね、浴衣着てこっちに微笑みかけてくるわけですよ。浴衣で。こっちに手を差し出してくるわけ。その手をっ!!金が惜しくてっ、振り払えますかっ!!!!!!」

「無理です。」

「そうでしょう。」



目の前でうんうん頷くバカは、非常に不本意ながら双子の実妹である。

というか、遅ればせながらまずは自己紹介をしよう。


吾輩。姓は天月、名は暁斗。先日成人したばかりの都内の大学に通うごくフツーの学生。

家族は年の離れた兄が一人と双子の妹が一人。
両親は幼いころに既に他界してしまったが、元より裕福な家庭であったことや、兄が世界中を飛び回っていることもあり生活に困ったことは無い。
その時からほぼ金銭面を初めとして兄におんぶに抱っこでここまで来た。

兄がほぼ家、というか日本にいないため、中学からほぼ目の前の妹と二人暮し。
中高、果ては大学まで一緒。流石に学部は分かれたが同じ校舎だ。四六時中一緒にいると言っても過言ではない。不本意だが。

仲は、まぁ悪くは無い。特別良くもないが。
そんな俺らの共通の趣味。


が、





「あまりの愛しさに直視できない。」

「今回ばかりは同意する。」


じりじり焦げ付く灼熱の屋外から隔絶されているとはいえ、オープンになってるガラス張りの高層マンションの室内は普通より暑い。

めんどくせぇので速攻で作った素麺をローテーブルに置き、L字ソファーに並んで腰掛ける。


ずるずる食べ始めて、数分後。
二人して顔を覆ってソファーに倒れ込む。
素麺どころじゃなかった。萌えでお腹いっぱいになった。


60インチの大液晶に映るは、天使。

ふわふわの金髪。たれ目の碧眼。柔らかそうな丸顔。低い身長。そして口から飛び出す突拍子もない天然発言。

俺の嫁は今日も天使です。
可愛い。死ぬ。俺のメンタルゲージはすでにゼロである。


「毎週コレを楽しみに心臓動かしてる。文面の中ですら言いようのない愛しさを感じていたのに、アニメの破壊力よ・・・・・・。動いてるよ、喋ってるよ、カワイイかよ、いっそ殺して。」

「ラノベガチヲタのガチレスキメェ。」

「うるせぇ腐女子。埋めるぞ。」

「あ、ところで兄さん。今度のスパコミはコスする?するなら妃咲にレスしなきゃいけないんだけど。」

「目立つので本当は嫌だが、普段着でお前のブースで売り子をやるほどの地獄はないのでコスします。」

「りょ。今回もわたくしの新刊ジャンルコスでオナシャス。」

「俺はいいけど。お前今回何描いてんの?」

「ヒロアカ。オール一冊確定で、まぁ夏休みだし余裕あるからもう一冊描こうとしてるんだけどカプは未定。皆いい。何ならNLでもいいとすら思っている次第にござる。」

「へークソ腐女子がBL一択じゃないのは珍しいな。そーいやどハマってたなヒロアカ。そんなにいいか。俺まだちゃんと見てねーや。キャラはなんとなく分かるけど。」

「いやもう見て。ほんと見て。死ぬから。アニメのクオリティ半端ないから。てかもうキャラが熱い。ストーリーも熱い。カプも熱い。」


ケータイ片手にゴロゴロ転がる妹に、へーえ。と返せば徐にピタリと動きを止め、思い出したかのようにこちらを見る。


「そうだ。ちょうどいいや。兄さん、旅行行こうよ。」

「・・・・・・・・・へ?」

「え、なに間抜け面して。」

「え、いや、えぇ??旅行ぉ?引きこもりのお前に、このクソ暑い中行きたいところなんてコミケとスパコミ以外にあんのかよ。」

「異世界。」

「は。」

「いや、だから異世界。」



まずい。

とうとう頭がやられたのだろうか。
冷房もっと温度下げた方がいい?てか病院連れてった方がいい?


「いやね、昨日兄さんがバイト行ってる間に幸兄から郵便届いててさ。」


幸兄。
本名、天月幸慈。俺達の兄だ。

ソファから立ち上がり、リビングを出ていったと思えば一通の封筒を持ち帰ってくる。
世界中を飛び回る兄から各地の絵ハガキはよく届くが、手紙形式なのは珍しい。

妹が封筒から取り出したのは、映画のチケットのようなもの二枚。


「何それ。」

「異世界トリップツアーのペアチケット。」

「もっかい言うね。何それ。」

「まぁ信じられないのも無理はない。」


HAHAHAと笑う妹は本気で頭がおかしい。
というかそんなもんを送ってきた、兄貴が一番頭がおかしい。


「まぁ兄さんは現実を目の当たりにしないと信じられない、想像力乏しい系中途半端残念クソヲタだから今はそれについてはいいよ。もし異世界に行けるとしたら、行きたいか行きたくないかだけで答えて。」

「えぇ?そりゃ行けるもんならそんな幸せなことないから行きたいけど、いや待てやっぱどこ行くかにもよるーーー、」

「あ、行きたいって言った。カミサマー!兄さん行くってー!!」



《あ、マジでー?じゃあオマケの特典、アッキーにも付けとくね。じゃあ最初の世界、いてら〜》


「は?」



急に宙に向かって叫び出した妹に返ってきた聞き覚えのない男の声。
俺まで頭がいかれたかと心配した瞬間、目を開けていられないほどの眩しい光と共にぐるりと世界が回る。






気づけば視界に広がるのは見覚えのない部屋、ガラスの外に広がる街並み。

そして、さっきより幾らか幼く縮んだ妹。
心なしか自分の視界も低くなった気がする。いや間違いなく低い。


そして肌でわかる。冷や汗が滴る。
ここは、元いた世界じゃない。


ピコン。

まるでどこぞのネトゲのように表示されたテロップ。



《僕のヒーローアカデミアの世界へようこそ〜

天月暁斗 に 最強物理攻防SS+
天月縁寿 に 最強魔法攻防SS+

が、付与されたよ〜

じゃ、二度目の高校生活楽しんでー》


脳内で読みあげればぷつりと消えるテロップ。


「状況把握した?」

「うん。俺のSAN値がピンチ」

「嫁思い浮かべて全力自主回復して。」





いや無理ですやん。