残酷に晴れて疎ましい空に



「何しているの?」

貴将さんと初めて出逢ったのは、あの庭の中だった。みんなと違っていつもひとりのお兄ちゃん、というのが私の最初の印象。

「虫さん、逃してるの?」
「……うん」

それから彼は捜査官になって、私がCCGに入隊した頃には彼はすでにその名前を響かせていた。
0番隊に入隊して久しぶりに顔を合わせた時、彼から話しかけられたのは正直驚いた。

「久しぶり」

話したのは数回。覚えているのは私だけかと思っていた。
笑いかけてくれた彼に少女時代に密かに想った恋心がまた熱を帯びたのを覚えている。

そうしてまさか――。
こうして隣に寝るまでになるとは。

久しぶりに部屋でゆっくりと休めている。有馬さんもやっぱりお疲れらしく、静かな寝息を立てて眠っている。
妙に目が冴えていた。まだ日が昇るのには時間があるというのに、なんだろう。

この胸騒ぎは――。

そう思った時、私の端末が震えた。
あぁ、コレか。私はしばらく端末を持つか迷ったが、通話のアイコンをタップする。

郡からだった。ロゼ掃討が終了したらしい。
今回もかなりの犠牲者が出たそうだ。
月山家当主も一度は捕らえたものの逃走され、その息子も消息を絶ったらしい。
しかも、隻眼の梟まで出現ししたという。

郡からの連絡を切り、ブラリと腕が鉛のような重さになって私の膝の上に落ちた。

「どうした」

貴将さんはベッドの中で目を覚ましていた。
悪い予感とはどうして当たってしまうのだろう。

「貴将さん……ハイルが、殉職しました」
「……」

庭出身の貴将さんと私の後輩。
マイペースな子だったけれど、捜査官の中でも腕は一流で私達に懐いて可愛らしい子だった。貴将さんは「そうか」と少し視線を落とした。

連絡してきた郡の声が震えていた。いつも気丈に振る舞っていた彼も部下のハイルの死に揺らいでいるんだ。

「大丈夫か、悠」

貴将さんの指が私の頬を撫でる。気づかなかったけれど、私の右目からは熱いものが流れ落ちていた。

「ごめんなさい……」
「……いや」

私達は捜査官だ。毎日のように誰かが死んでいる、明日は我が身だ。
それに、私達は白日庭出身の出来損ないの人間。

私は、寿命の方が早く尽きるかもしれない。

肩を抱かれて貴将さんに抱きとめられる。頬に流れる涙を彼は一粒一粒拭い取ってくれた。人が死ぬのはいつまでも慣れる事はない。

どうして人は死なねばならないんだろう。

「貴将さんは、死なないで……」

貴将さんの胸に顔を埋めると、彼の心臓の鼓動が確認できた。彼は何も言わず、私の背中を撫でてくれる。

私はまだ生きている。
彼もまだ生きている、此処にいる。


To be continued…

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