ジョンブリアンへ慈悲のくちづけを
0番隊はSSレートの喰種、鯱と交戦した。
いつも通り、何の迷いもなく貴将さんが難なく駆逐した。
――いつも通り。
でも、どこか違和感を覚えた。
別に無事に駆逐したんだから良いように思ったのだが、最近の彼の戦闘は今までと何か違うのだ。
「貴将さん、報告書です」
「あぁ、ありがとう」
会議室には私達ふたりきり。
まとめた報告書を貴将さんに確認してもらう。ふと、彼の右目にかかる前髪が邪魔そうだったので彼の髪を触れる。
すると、有馬さんは少し驚いた顔をして顔を上げた。
「えっ、あ、ごめんなさいっ」
あれ、嫌だったの?私は思わず手を引っ込めてしまう。
有馬さんは「……いや」とまた顔を下げた。
――ちがう。
最近の戦闘で気になることが分かった。本当に一瞬、貴将さんは右側のガードが遅れるのだ。それだけ、それだけなのに貴将さんにとっては小さな問題ではない。
「貴将さん…!」
「……悠」
立ち上がった彼に唇を塞がれる。
いつもと違う、強引なキス。強く唇を塞がれて、まるで何も言うなと言わんばかりに強くて長い口付け。
「……なんで……?」
「……」
どうして言わなかったの?
右目が見えていないことに。
「……もう少ししたら分かる」
「……え?」
「俺がしようとしていることを話す」
視力が失われた。
それはこの人の肉体の終わりを示唆される。私達の肉体は人間よりも寿命が短い。貴将さんの寿命はすぐそばまで来ているという事実に、私はその場に崩れ落ちそうだった。
「泣くな……」
貴将さんに困った顔をさせてしまっている。それでも私の涙は止みそうにない。いっそのこと、もう任務に就かないで安静にしていてほしい。死ぬ運命が変わらないのならせめて少しでも長く私の姿を映して、少しでも長く生きていてほしい。
置いていかれるのは辛すぎる。
To be continued…
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