彼の詩が暗愚を裁く




私の願いは聞き入れられることはなかった。流島にアオギリが潜伏しているとの事だ。大幅な戦力を島に割りつつも、私たち0番隊は本土防衛班としてコクリアを警護することとなった。
作戦開始日の前日。私は貴将さんに呼び出され会議室に入った。そこには何故か平子さんも居て、有馬さんの背中を見つめていた。

「……有馬さん?」
「悠と2人だけにしてくれ」

平子さんは出て行く時、私の肩を叩いて「聞き入れろ」とだけ言って部屋を出て行った。
有馬さんはただ窓の外の空を見上げて、しばらく黙っていた。

「……悠とは幼い頃からの付き合いだな」
「……そう、ですね」
「お前はあの頃から変わらない」
「……何、言って……?」

外を見上げる彼の眼にどれだけの色が、今映っているのだろう。

「お前にはそのままでいてほしい」

彼から、ある話をされた。
それは次の作戦についてだ。彼はとある喰種と戦うという。話が見えないけれど、でもそれはどうやらハイセの事を言っているらしい。ハイセとは数回顔を合わせた事があるが、不思議な青年だった。貴将さんを父親のように慕い、彼の指導を受け特別なクインクスを率いていた。だが、最近どうも様子がおかしい。鋭い雰囲気を周りに放ち、彼は梟を であった作家・高槻泉を捕らえた。

「ハイセと、何故戦うことになるんです?」
「……喰種と、人の世界を変えるために」

振り返った彼の顔を見て、こんな状況でも表情が読めない。
彼と戦うことでこの世界は変わるというのだろうか。私だってこの世界に納得しているわけじゃないけれど。

「俺はハイセに賭ける」

どうして、これだけ分かるのだろう。
――彼は自分の命を賭ける。

「そんな、なんで……」

彼の身体に思わず抱き着く。彼の事を気づくのはいつも私は遅すぎるのか。悔しいのから寂しいのか目から涙が出てくる。
彼は私の頭をただ撫でるだけ。彼の手に促されて顔を上げるとあの時と同じように強引に唇を奪われた。

「……ん、やっ……!」
「……悠……」
「……んっ……」

強く唇を吸われて、口腔を割って舌が絡まってくる。平子さんの先ほどの言葉が脳裏をよぎった。

――聞き入れろ。

私の唇から離れて、彼の顔を見る。
珍しい、薄く笑って。でも哀しそうな顔をして私を見ている。また溢れ出しそうな涙を必死に堪えて私は彼に聞く。

「……上官命令……ですか……?」
「ちがう、恋人へのお願いだ」

最初で最後の彼の涙を私は見たのだった。


To be continued…

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