されどエンターテイナーは踊る



「まぁ、可愛らしいレディ!!こんなお嬢様と知り合いなら早く言って下さい、伯爵!」

しばらくしてハイテンションな女性が来客した。お洒落なドレスに大きなトランク。彼女はニナ・ホプキンスさんというファントムハイヴ伯爵家専属の仕立て屋さんだという。
ニナさんに舐めるように全身を見られる。

「なんてきめ細やかな綺麗な肌……。アジアンの女性は英国の女性とはまた違う美しさがありますわよね」
「えっと、ありがとうございます…」

スキンシップが激しくて思わず顔が熱くなる。

「分かりました。あなたに似合うお洋服、私が仕立てて差し上げますわ!」



その頃、別室で待たされている葬儀屋、シエル、セバスチャン。

「どう思う〜、あの子?」
「"どう"…というのは、どういう事だ?」
「執事くんなら分かるんじゃないかなァ、あの子に感じる"違和感"」

セバスチャンはシエルの紅茶を入れ終えてから、答える。

「薄いですね」
「薄い?」
「あのお嬢様は魂の存在が薄いのです」

葬儀屋は「やっぱりそうか」と頷く。
初めて会った時から感じている違和感は、やはり魂の存在だ。明らかに他の人間と比べて薄い。それを、やはり悪魔も感じていた。

「しかし死にかけている訳でもなさそうです。病に侵されている者は存在が薄くなっていることはありますが、お嬢様はそれにも該当していません」
「自分の事だけを覚えていないとなると、何か恐ろしい事でも経験したのか…?」

確かにサラは真夜中、時折悪夢に魘されていた。息を荒らし、涙を流して、恐ろしい何かに抵抗しているのだ。

「お前も珍しいな」
「ンー?」

シエルが皮肉めいた笑みを葬儀屋に向ける。
死神の葬儀屋にとっては彼女とて人間のひとりと同じだ。

「小生だって記憶喪失の女の子を放っておくなんてことはしないよ〜。それに、記憶喪失の人間なんてそう会えないデショ?」
「フッ、そうか」
「たぶん楽しい事があると思うんだよね〜」

扉が開いてサラが笑顔で葬儀屋の元へと帰ってきた。

「仕立ててもらえるって?」
「うん! 可愛いの仕立ててもらえそう」

怪しげな葬儀屋と、記憶喪失の淑女。
この組み合わせの違和感に伯爵と執事は首を傾げた。


To be continued…


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