ニコラシカ革命



ニナさんから服を仕立て終えたと連絡が入り、私とアンダーテイカーは再び伯爵家へと脚を運んだ。
ニナさんは私に数着の普段着を見せてくれた。普段着には勿体無いくらいの上等なものを私は仕立ててもらえたらしい。
そうして、私はニナさんに推されてとある一着を試着していた。

「やっぱり私の目に狂いは無かったわ…!こちらはシルクサテンを使ってまして、胸元と袖口のレースは薔薇をモチーフにしましたの」
「は、はぁ…」
「もう少し、腰を絞った方が良いわね…!あとはこの美しい髪も結い上げて…」

私の腰からふわりとした緋色のスカートが広がっていた。こんな美しいドレスを私は頼んだ覚えはないのだけれど、ニナさんが勝手に仕立てたようだ。夜会用のドレスなのか、肩と背中が空いていて落ち着かない。最終調整を終えて、私は背中を押されつつ、アンダーテイカーと伯爵が待つ部屋へと通された。

「ご覧下さい、伯爵!!どこからどう見ても美しいご令嬢ですわ!」
「ほぅ、これは驚いた。さすがだなニナ」

伯爵もセバスチャンもよく似合うと言ってくれた。アンダーテイカーの元に行くと彼は何も言わず私を見ている。

「……? ……アンダーテイカー?」
「……ん、あぁ」

アンダーテイカーに恭しく手を取られる。そのままなんと、私の手の甲にキスを落とした。思わず手を引っ込めるとクスリと彼に微笑まれる。

「ヒッヒッ、ちょっと驚いただけだよ。サラが急に綺麗になるからねぇ」
「もう…!」

――あぁ、びっくりした。

伯爵から少し話があると言われ、席に着く。セバスチャンがいつもの美味しい紅茶を淹れてくれて、彼の話は始まった。

「サラが倒れていたという場所の辺りを調べさせた。そうするとひとつの館があった。」
「……館?」
「アードレイ伯爵家の所有している館だ」

セバスチャンが調べたところ、アードレイ伯爵は既に他界しており、今はテレーズという夫人が住んでいるという。

「アードレイ伯爵夫人、何か思い当たることは無いか?」
「いいえ、……何も」

テレーズ・アードレイ。私の記憶の中に彼女の名前は無かった。
その彼女が今度開かれる仮面舞踏会に参加するとの情報が流れた。

「その仮面舞踏会も少々キナ臭いものでして。仮面舞踏会は表で裏があるのではと私達は考えております」
「というと人身売買とかかなァ?」
「えぇ、それであれば女性達の失踪にも話が通ります」
「それで、何で私にそんな話を?」

伯爵からひとつの手紙を渡される。
中を開くとその仮面舞踏会の招待状だった。

「貴族のしきたりとはめんどくさくてね、レディがいないと出れないんだ」
「えっ、私も出るんですか!?」
「そのための御召し物でございます、お嬢様」

ニナさんが勝手に仕立てたと思っていたこのドレスは実は伯爵からの依頼だった。
アンダーテイカーに顔を向けると、「小生も参加するよ」と言われた。危険を伴うかもしれないという不安は無くなったわけだが、それでももうひとつ私には不安があった。

「わ、私、マナーとかダンスとか全然分かりません!」
「お嬢様には必要最低限のマナーとダンスは覚えて頂く必要がございます。それは私にお任せ下さいませ」

貴族の令嬢の真似事なんてできる自信がない。
でも、伯爵は私の記憶を取り戻す手掛かりになることしれないと言う。自分が何者で自分の身に何があったのかを、私は知るべきだ。

「……分かりました。」
「では、早速ですがレッスンの方を始めましょう」

舞踏会まで2週間しかない。
私はセバスチャンの個人レッスンを受けることとなった。

To be continued…


ALICE+