今宵はルージュが彩る


あれから2週間。
セバスチャンの個人レッスンを受け続け、ついに明日例の仮面舞踏会を迎える。

私の覚えるスピードはどうやらとても早いらしく、みんなが驚いていた。何も覚えていないのに、なんとなくテーブルマナーの順番やダンスのステップなど誰かに教わった気がしていた。それがいつで、誰かなのかは分からないけれど。

「もしやお嬢様は貴族のご令嬢だったのでは?」

セバスチャンが真面目な顔をしてそんなことを言った。
もう窓の外を見ると月が高くなっている。明日のために早く寝なきゃと思うのだけれど、緊張して寝れずにいた。

「サラ、まだ寝ないのかい?」
「アンダーテイカー……」

「風邪をひくよ」と私の肩に羽織を掛けてくれる。店に置いてある棺桶の上に座っている私の隣にアンダーテイカーも座る。明日は彼も一緒だけれど、やっぱり不安だ。貴族の社交場に出て、何も知らない娘だとバレたりしないのだろうか。バレたら摘み出されるかも……。

「大丈夫だよ、仮面していて誰だか分かりゃしないんだから」
「うん……」

アンダーテイカーは立ち上がって私の前で恭しくお辞儀をして、私に手を差し出す。

「お嬢さん、小生と踊ってくれるかい?」

思わずクスリと笑ってしまった。
私は立ち上がって彼の手を取ると、リードしてくれてステップが始まる。

「アンダーテイカー、上手だね…!」
「ヒッヒ、そうか〜い?」

いつもセバスチャンのレッスンの時はアンダーテイカーは見ているだけだったのに、彼はとても上手だった。
ターンが入って彼の前髪が流れると、黄緑色の瞳と目が合うと心臓がドクンと高鳴る。その瞳から目が離せず、ステップが遅れてしまった。

「ひゃあ!」

体勢が崩れそうになったところをアンダーテイカーに支えられる。目の前に彼の顔が迫って、彼に私の鼓動が聞こえてしまうのではないかと思うほど煩くなっていた。

「サラ?」
「……ぁ、大丈夫……! ありがとう……」

思わずアンダーテイカーから離れて、距離を取る。
彼は小首を傾げて私の事を見ている。
月明かりに彼の銀髪が美しく輝いていた。セバスチャンもそうだけど、アンダーテイカーも不思議な雰囲気があると思っていた。

「……あの、アンダーテイカーはどうして目隠しているの?」

なんとなく気まずくて、話題を振る。
アンダーテイカーは再び棺桶の上に座った。

「せっかく綺麗な目なんだから出せば良いのに」
「そうかい?……そうだねェ、サラにもそのうち教えてあげるよ」

どういう意味だと尋ねようとしたけれど、アンダーテイカーに「もう寝ようか」と言われてしまった。最後に頬にキスをされて、私はしばらくベッドに入っても目が冴えたままだった。




翌日、伯爵の洋館に向かい準備を整え夕方頃私達は仮面舞踏会の会場へと向かった。会場に入るとその名の通り、会場にいる貴族達は全員仮面をして煌びやかな衣装に身を纏っていた。華やかな大きな会場に、豪華な生演奏が彩っている。身分を隠して踊る秘密の社交場がそこにはあった。

「全く……毎日毎日貴族というのは本当に派手好きだな」
「坊ちゃんもその貴族の片割れでごさいますよ」
「僕を"あれら"と一緒にするな。」

伯爵、セバスチャン、アンダーテイカーと、私は無事に会場に入った。私はシエルの遠縁の娘という事になっている。私達はもう一度作戦を確認し合う。

「僕とセバスチャンはこの舞踏会の裏の顔を暴く」
「やはり、限られた人間のみが入れる部屋があるそうです。私達はそちらに向かいます。葬儀屋さんはお嬢様の護衛をお願いします」
「はいはーい、行ってらっしゃ〜い」

私の役割はこの舞踏会でなるべく目立つということ。そうすれば例のアードレイ伯爵夫人が近づいてくるかもしれないからだ。危険は伴うが私の隣にはアンダーテイカーがいる。昨日はなんとか寝ることができたが、やっぱり来てみると緊張で顔が強張る。なんとか笑顔でいなきゃ。顔に手を当てていると肩にアンダーテイカーの手が置かれる。

「さ〜て、とりあえず一曲踊ろうか」
「え?」
「せっかく来たんだ、楽しもうよ、ねェ?」

いつもと違う装いをしたアンダーテイカーではあるが、やっぱり優しい彼だ。
私は昨夜と同じように彼の手に自分の手を重ねて会場の中央へと進んだ。


To be continued…

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