純潔とか貞淑とか淑女とか




寝苦しさに目を覚ます。
眼に映るのは家とは違う天蓋だった。全身が熱くて怠い。あぁ、またかとため息を吐いた。

「お目覚めでございますか、カレンお嬢様」
「セバスチャン……」

視線を少し動かすと、そこにはファントムハイヴ伯爵家の執事、セバスチャンが立っていた。

「ごめんなさい……、せっかく遊びに来たのに」
「いいえ、お気になさらず。ホットミルクを淹れました、飲まれますか?」

それなら飲めそうだと思い頷くと彼は優雅に蜂蜜を入れたホットミルクを淹れてくれた。身体を起こして一口飲むと甘さが口に広がる。
今日は久しぶりにシエルに会いに来たのだ。楽しみに来たのに、私の身体はすぐにバテてしまう。チェスをしていたまではしっかり記憶にあるのだが、だんだんと身体に異変を感じてきてしまいに倒れたのだった。

「ご加減はいかがですか?」
「ん…ちょっと熱っぽいかな…」

額にヒヤリとした冷たいものが当たる。手袋を外したセバスチャンの大きな手がそこにはあった。

「……確かに、少々熱いですね」
「……っ」

いつもは手袋で隠れている彼の男性的な手。熱だけでなく、体温が上がる。彼は私と違って使用人なのだから、こんな感情は持ってはならない。けれど、どんな貴族の子息にも彼ほどに胸が張り裂けそうになる男性に未だ出会ったことはなかった。

「あぁ、汗をかかれていますね」
「え、ぁ…っ」

ふわふわとしたタオルが首に当たる。
気恥ずかしいさとくすぐったさに肩をすくめると彼はクスリと笑った。

「……あまり可愛らしい顔をすると食べてしまいますよ」
「え……?」

私の頬をセバスチャンの手が撫でる。
彼の顔が近くて思わず顔を逸らしてしまう。

「ふふ、使用人風情が失礼いたしました」

彼にもう少し寝ていた方が良いと言われ、再び横になる。真っ赤になっているだろう、顔を見られたくなくて顔まで被った。セバスチャンは静かに部屋から出て行く気配が分かった。

あぁ、どうして。
私は貴族の娘に生まれたのだろう。


あの空を超えて



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