隣はいつでも空いているから



「うー、肩痛い……」

このところ、喰種の襲撃と書類の制作に追われていた。周りを見渡せば、同じ班の阿原さんや半井さんも忙しそうにしている。私だけではない。だから私だけ休むわけにはいかない。深く息を吐いて、再び書類に向かおうとした時肩を叩かれた。

「ユイ〜」
「あっ、じゅ……鈴屋さんっ!」

鈴屋さんに少し離れた会議室に呼ばれて、行けばそこにいけば座るように言われる。

「はい、どーぞ」
「え、あっ、ありがとうございます…」

普通ならここは缶コーヒー。でも、私の前に置かれたのはりんごジュース。

「別にみんなの前でも"什造"で良いんですよ〜?」
「それじゃあ、皆さん気にしますよ」

私達は恋仲だった。私がまだ皆さんには言わないでほしいとお願いしたのだ。什造さんに追いつくまではと、彼に我が儘を言った。
りんごジュースを飲みつつ、オフィスに残してきた書類の束が気になる。アレを早く片付けないといけない。
ふと、視線を感じて什造さんは私をじっと見ている。

「なんですか?」
「ユイに30分間の休憩を命じまーす」
「えっ」

什造さんはニコニコして、そんな事を私に告げる。

「いや、困ります! 私まだまだ残ってて…!」
「大丈夫です、はんべ〜達がやってくれます」

確かに阿原さんは什造さんのために働くことが生甲斐みたいな人だけれど。でも、あの人にはあの人の仕事があるわけで。

「まぁまぁ、コレ食べるです」
「えっえっ……」

ポケットから大量のお菓子が出てくる。もう会議室は完全に什造さんのプライベートルームと化していた。

「いつも言ってるじゃないですか〜。ユイは頑張り過ぎです、ひとりで突っ走らないでくださいよ」
「だって、……早く肩を並べたくて……」

私だって堂々と交際を宣言したい。
でも、「あんなヤツが特等と」なんて什造さんの為にも言われたくない。
什造さんがため息をひとつ吐いた。呆れられた、のだろうか。

「実はユイに言っておきたいことがあるです」

――うちの班はみんな僕等のこと、知ってるんです。



「ええ、存じておりますよ」
「なんだ逆にお前気づいてなかったのか」

あの一言を言われて私は走ってオフィスに戻った。私のディスクに置いてあった書類は先輩達が手分けして片付けてしまっていた。そして、私と什造さんの事を確認すれば全員が首を縦に振ったのだ。

「鈴屋先輩がユイとのお時間が欲しいと申されましたので、手伝わさせて頂きました」

両手にドサリとすでに終わった書類が渡された。

「特等もお忙しい身だ。……お前が唯一の癒しなんだそうだ」

半井さんは「癒して差し上げるのもお前の仕事だ」と言った。隣にはお菓子を口に頬張る什造さん。

「もうとっくに並んでますよ」

勝手に自信が無かったのは私だけだったらしい。周りも、什造さん自身も認めてくれていたのだ。
私はその日から少し肩の力が抜いて、任務に励むようになった。ひとつ問題だったのは噂とは怖いもので、次の日には情報が解禁されたように、CCG中の人が私達の関係を知ったことだろう。


君が運命(さだめ)だ
(ユイ〜、一緒に休憩しましょー)
(実は今日プリン、買ってきました!)
(さすがですねぇ)
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