俺とお前の距離は未知数



私の部屋にいきなり総悟が入ってきた。息を荒くして切羽詰まった顔をしながら、私を見ている。

「お前、斬られたんじゃねぇのか……」
「え、あぁ、コレ?」

腕をめくって見せると、私の腕には確かに刀傷がある。血が流れているが、このくらいなら大したことはない。

「深くないから、大丈夫、大丈夫……」
「お前馬鹿か! 早く手当しろっ!」
「え、なに」

総悟に無理矢理座らされて、総悟の手当てを受ける。相変わらず焦った顔をして私の傷口を見ている。

「どうしたの、別にこのくらい……ひゃあ、何すんの!?」

血を洗う水を顔に思い切り掛けられる。総悟はいつも見ない怖い顔をして私を見て言う。

「このくらいじゃねェ、刀持てなくなったらどうすんだ、テメェ」
「……でも。い、痛い痛い! 分かったよ、ごめんなさい!」

そこまで言うなら大人しく手当てしてもらうよ。
御用改めで攘夷志士の潜伏場所に斬り込んだ時に、少し斬られたのだ。私はこのくらいの傷で動けなくなる程度ではない。そのまま、攘夷志士を一人残らず逮捕する事ができたのだ。

「ひとりで突っ込んでんじゃねェ」
「総悟に言われたくない」
「俺ァ、斬り込み役なんだよ。お前と一緒にすんな」

総悟とは幼馴染で、近藤さんや土方さんに着いて江戸まで強引に来たのだ。一緒に稽古した身だ、遅れをとってるつもりはない。
そりゃ、総悟には敵わないけれど。

「……でも、ちょっと嬉しい」
「は?」
「総悟が心配してくれたから」
「……っ、」

今日は本当に珍しい日らしい。
あのドS星の王子が顔を赤らめているのだから。――可愛い、と思って口を開こうとした瞬間に、傷口を思い切りギュッと握られた。

「い、痛いっ、痛い!!」
「調子乗んなよ、お前ェ……」

激痛に涙が出る。
流石にこの痛みは身体に答える。

「こんな傷ならざっくり斬られてりゃ良かったのによ」
「……なんだ、素直じゃないな」

まぁ、でも。反省はしよう。
大したことなくても、確かに刀を持てなくなったら困る。総悟が傷を負って帰って来たら私だって冷静じゃいられないかもしれない。ちらっと横目で総悟を見る。真剣に私の手当てをしてくれている。

「……総ちゃん」
「……っ、なんでィ」

昔は"総ちゃん"って呼んでたっけ、と思って久しぶりに呼んだ。「……ありがと」と呟けば彼は「……おぅ」と照れくさそうにしていた。

「……沙耶、明日仕事入ってんのかィ?」
「うん、市中の見廻りが……」
「それ、代わってやる。だから、大人しくしてなせぃ」
「え、ウソ!?」

あの総悟が!?
しっかり包帯を巻いて手当ては終わった。総悟は最後に私のおでこになかなか痛いデコピンを放って部屋を出て行った。
その後、仕事表を見たら明日だけじゃなくてしばらく私の隊の仕事が1番隊へと代わっていた。

君が僕の力になる
(総悟、あのさ、今度どっか……一緒に行こ)
(……し、仕方ねェな)
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