夜に咲く蝶々




「いらっしゃいませ、沙耶です」

派手なミニ丈着物に、派手な髪型。いつもはしないような格好をして、私は席に着いた。

キャバクラのスタッフとして。

事の発端は、お妙さんが働くキャバクラで人手が足りないとの事からだ。「ヘルプのヘルプで、客の話聞くだけで大丈夫だから!」と店長さんに言われ、私は承諾したのだが……。

「キャバクラだぁ!?銀さんは許さねぇぞ!!」

銀さんに話した瞬間、大反対された。

「ちょっとおしゃべりするだけだから……」
「沙耶がそのつもりでも男はそうはいかねぇぞ!!酒入ったヤラシイ野郎がキャバ嬢をこの後どうにかならねぇかって、それしか考えてねェよ!」
「……そんな人だけじゃないよ」

銀ちゃんが首を横に振り続けるので、店長さんに頼んで銀ちゃんもボーイに加えてもらった。

「はい、どうぞ」
「お、ありがとねー沙耶チャン」

銀ちゃんが心配するほどの事じゃなかった。私はちょっとお酒を作ってあげて他のお姉さん達のお話に一緒に笑っていれば大丈夫。
だけど、そのお姉さんが私に耳打ちする。

「沙耶ちゃん、ちょっとの間このお客さんお願いできる?」
「えっ、でも私……」
「指名入っちゃったのよぉ、ちょっとだから!お願いねぇ」

そう行ってキャバ嬢のお姉さんは私を置いて行ってしまった。

「緊張しちゃってー、新人さんかい?」
「っ、えっと…」

隣にお客さんが詰め寄って肩を抱かれる。さっきからお酒を飲むテンポが早いとは思っていたけど、やっぱり酔っているらしい。私は愛想笑いをしてお酒を注いであげる。お客さんの手がさりげなく太ももに当たって身体が強張る。

「可愛いねぇ、おじさんタイプだよ」
「いや……やめて下さい」

お客さんの手を退けても、太ももに手を乗せてくる。どんどんお客さんの手が荒くなってきて身体が震えてきた。
――銀ちゃん、と思った時、お客さんの頭上から大量のワインが注がれる。

「おい、テメェ何してんだ」

ゾッとするほど冷たい眼をした銀ちゃんがそこには立っていた。空になったワインボトルを投げ捨てて銀ちゃんはお客さんの胸元を引っ掴む。

「お、おい客に何を……ッ!!」
「テメェこそ人のオンナに手ェ出してんじゃねェ!!」

銀ちゃんはお客さんをそのまま隣の席に投げ飛ばした。何だかそのまま店で喧嘩を応援する形になり、店は無茶苦茶になってしまった。
銀ちゃんにボコボコにされたお客さんは逃げるように店から出て行き、銀ちゃんに賞賛の声が浴びせられた。そんな声も銀ちゃんは無視して私の元にやって来た。

「おい、何もされなかったか?」
「……うん、大丈夫……」

いつの間にか泣いていたらしく、銀ちゃんに涙を拭かれる。

「ったく、やっぱさせんじゃなかったぜ」
「でも……銀ちゃんが来てくれるって思ってたから、嬉しかったよ?」

やっぱり銀ちゃんは私が困った時には必ず来てくれる。私はそう信じていた。
そう言えば銀ちゃんは少し照れた顔をして、私の隣に座った。

「酒くれや、沙耶」
「……ふふ、はい銀ちゃん」

私がお酌するのは銀ちゃんだけにしておいた方が良いらしい。今夜は銀ちゃんに惚れ直したという事で、付き合ってあげよう。

潤む瞳に満月
(銀ちゃん飲み過ぎじゃ……)
(隣に可愛い子チャンがいりゃ酒も進むわ)
(……ありがと……)

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