シェルレアリスムの騙し絵


街を歩いていてなんとなく気になった喫茶店。知らない間にいつの間にか新しくできていたそこにどうも惹かれる。

『:re』――なんて読むんだろ。

変わった店名。でも雰囲気と香る匂いに誘われてこの店に入る事に決めた。

「いらっしゃいませ」
「……こんにちは」

綺麗な女の子の店員さん。彼女に席を案内されてコーヒーを注文する。奥の方で視線を感じて見ればちらりと、男の店員さんも見えた。私の視線に気づいた彼はすぐにその視線を外された。

――あぁ、そういうことか…。

運ばれてきたコーヒーを一口飲めば良い香りが鼻を抜ける。良いお店を私は見つける事ができたらしい。
さてと。私はカバンから仕事用具を机に広げる。

「こんにちは」
「えっ? ぁ……」

顔を上げると見知らぬ顔がそこにあった。店にいたのだろうか。ひとりの喰種が私に話しかけてきた。
なにせ、彼は喰種特有の嚇眼を隠そうともしないのだからすぐに喰種と分かる。彼はウタと名乗り、私の席のテーブルに広がるものに目を落とした。

「何してるの? お仕事?」
「そう、ですけど……」
「へぇ、……作家さんだ」

彼の言う通り、私は小説家だ。
今は次作のプロットを作っているところだった。私はこの仕事を落ち着いてできるところを探してこの喫茶店に辿り着いたのだ。
このウタさん、という喰種。どうもここをどく気がないらしい。まぁ別に急いでいる訳でもないのだけど……。

「あのっ、……何かご用ですか?」
「うーん、簡単に言うとナンパかなー」

……こんなはっきり言われるなんて。

「お姉さん、名前は?」
「えっ……と」

どうしよう。こんなこと初めてだし。
彼はニコニコして、私のこの焦りも楽しんでいるかのよう。

「じゃあ、ペンネームとかあるの?」
「……夏目レイです」
「あー、なんか聞いたことあるなぁ。かなりメディアで取り上げられてるでしょ」

確かにメディアでのインタビューはそれなりに受ける。でも一度も素顔を晒したことはない。イメージがつくのも嫌だったから。
彼とは私の本の話をした。私が書くのは、恋愛小説。デビューの頃からずっとずっと恋の話を書き続けている。

「恋の話か、素敵だね」
「ふふ、でも……私の書くのはハッピーエンドは少ないですよ」

皆が皆、結ばれるわけじゃないから、私はあえて悲恋ばかりを書いている。好いた人が振り向いてくれない話、嫉妬に狂う話、死んだ愛しい人の後を追う話。
どんな時代だろうと、どんな世界にだってこんな話は付いて回るのだ。

「僕も、悲しいお話は結構好きだよ」
「そうですか?嬉しいです」

彼の眼とふと視線が合う。なんだかその視線から逃れられなくて――、彼は私の目を見ながらこんなことを言った。

「変わった匂いするね」
「えっ」

と彼は私の顔を覗き込む。
しばらく彼と見つめ合ったまま。

「ねぇ、お姉さんさ……、もしかして」

――隻眼なんじゃない?



To be continued…
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