何色の猫がお好み


ウタさんに誘われて、彼の店へと向かった。4区にある『HySy ArtMask Studio』が彼のお店。喰種には必要なマスク屋を営んでいて、彼が手作りした沢山のマスクが店内には並んでいた。

「でもびっくりだなぁ」
「何がですか?」
「本物の隻眼の喰種に会えるなんてね」
「どうかな、意外といるのかも」

彼の言った通り。
私は隻眼の喰種。
喫茶店で彼に私の隻眼を見せれば「わぁ」と驚きの声を出した。
何だが、他の喰種と違うウタさん。初対面の人に、しかもナンパの人に隻眼を見せるなんて自分でもどうかしてると思う。

「どれも綺麗」
「綺麗、か。なかなか言われないな」
「そう?」
「みんな、かっこいいとか怖いとか」

どれも繊細な美しい装飾が施されていている。彼はとても器用らしい。

「ねぇ、そろそろ名前教えてよ」
「……尾花玲です、よろしくねウタさん」
「玲さん、……玲さんか」

夏目レイは編集が決めたペンネーム。久しぶりに自分の本名を名乗った気がした。

「僕とお友達になってくれる?」

ウタさんはそんな事を小首を傾げながら聞いてきた。見た目と反して随分穏やかで何だか可愛らしい。

「……うん、いいよ」

「ふふ、やった」と彼は穏やかに笑う。
こんな私で良いんだろうか。もっといい子がそこらにいるだろうに。
ウタさんにマスクを作るところを見せてもらった。ひとつひとつ丁寧に縫上げて、慎重に材料を選んでいく。

「玲さんってどこ出身?」

その質問に私は一瞬息を飲んでしまった。マスクを触ろうとした手をそのまま下げて、私は彼に背を向ける。

「……24区」
「あぁ、そうなんだ……」

あそこには、あまりいい思い出が無い。地上に出て来て以来、24区に戻ったことは一度だってなかった。

私にとってあそこは――墓場。

「玲さん?」
「ううん、なんでもない。ごめん、……そろそろ今日は帰るね」

荷物を持って、お店を出ようと出入り口に向かおうとするとウタさんに手を掴まれる。

「また来てね……玲さん。送っていこうか?」
「大丈夫、また、ね……」

今日は楽しかったと言えば彼は嬉しそうに笑ってくれた。
外に出れば外は夕方になっていた。ナンパ、は初めてで戸惑ったけれど、まぁ自分には良い刺激になっただろう。
ウタさん、彼は喰種には珍しく良い人だった。でも、私は――。
――また会うなんて、言ってしまった。
深いため息をひとつ吐いて、私はオレンジ色に染まった道を歩き始めた。


To be continued…

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