Love is blind,Hatred too


ロンドンに冬が訪れた。
元より滅多に晴れないこの街なので、余計に寒く感じる。吐く息が白い。夕方の時間帯。みんな急ぎ足で暖かな家へと帰宅していく。

「また雪降りそうだね」
「そーんなこと残念でもないんでしょ? 前に雪が降った時、はしゃいでいたのどこの誰だっけ〜?」
「そ、そんな事ないもん!」

アンダーテイカーと、買い物をしての帰り道。何でもない会話が幸せで嬉しい。今日はたくさん買えたし、何か温かいものでも作ろう。
アンダーテイカーの長い指が突然、私の鼻先を押す。

「ヒッヒッ、真っ赤だねェ」
「寒いと赤くなっちゃうの…。 ちょ、ちょっと待って、何でキスしようとしてるの!?」
「え〜?あっためてあげようかなってさ」
「ダメ!みんな見てる!」

アンダーテイカーの端整な顔が近づいてくるのを必死で押し返す。外では恥ずかしいからとスキンシップは最低限にしてといつも言っているのに。英国の人は当たり前のようにしてくるけれど、どうにも慣れない。
アンダーテイカーの肩口から、少し向こうから湯気が上がっているのが目に着く。彼を押し退けてそれに目をやると、小さな子供達が温かい食べ物を大人達から受け取っている。

「あれ、炊き出し?」
「ん?あぁそうだねェ…」

どうやらボランティアの人々が、開催しているらしい。よくよく見たら並んでいるのは見窄らしい格好の子供達だった。

「孤児だねェ。…冬のロンドンを凌ぐのはかなり難しいから」
「そう、だね…」

みんな家がなくて、こんな寒い中を外で凌ぐのだろうか。みんな幸せそうに受け取って、お腹を満たそうとしている。繁栄している反面、貴族と庶民の経済格差は大きく、特に子供達は見捨てられがちだ。残酷な社会が少し見えてしまって、胸が痛んだ。
ボランティアの人々の中に神父様のような格好をした人が数人いる。彼らが指示を出しているようだ。

「アンダーテイカー、ちょっと待ってて」
「へっ? サラ!」

私は持っていた荷物をアンダーテイカーに押し付けてそのボランティアの人々に話を聞いてみることにした。
彼らは新宗教で『リュミエール』と名乗っているらしい。人助けがしたい人々が集まった最近できた小さな宗教で、毎週のようにこうして炊き出しなどを開催しているそうだ。

「もし良かったら、今度の日曜日に教会に来ませんか? 教祖様から直々にお言葉を聞けますよ?」
「教祖様?」
「ええ。まぁうちの教祖様はまだ若いので、お話も肩苦しくないし、聞きやすいですよ? 」

彼らはニコニコして自分たちのことを教えてくれた。教会もあるらしく、わりとすぐ近くらしい。
人助けがしたい、と言っている人だ。きっと素晴らしい人格者なのだろう。ちょうどその日は用事もない事だし、行ってみようと思う。彼らにお礼をして、アンダーテイカーの元へと帰る。

「新宗教? なんだか胡散臭くないかい?」
「そんな事ないよ。 みんな良い人だったし。名乗る時にめんどくさいからーって新宗教って名乗ってるだけなんだって」
「ふーん…。そういえば、確かに新しい建物が建ってた気がするなァ」

もしかしたら私にも何か手伝えるかもしれない。
分厚い雲からチラチラと雪が降り出した。
アンダーテイカーが私の手を握って「早く帰ろう」と催促してくる。私は彼らからもらったチラシを持って帰路に着いた。


To be continued….

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