瞼の裏に咲く花よ華



「ハァイ!お邪魔するワ〜!」

店のドアが煩い音を立てて開けば、そこには真っ赤で派手な死神、グレル・サトクリフが髪を触りながら立っていた。

「残念ながら店じまいだよ」
「えっ!?ちょっと待ちなさいよ!?開いてんじゃない、アンタもいるし!!」
「うるさいねぇ、本当に。小生は虫の居所が悪いんだよ」

そう、君に構っている場合じゃない。
早くサラを追わなくてはいけないのに、どうしてか小生の足は動かなかった。
まさか、彼女にあんな事を言われるとはね。自分でもびっくりするぐらいショックだったようだ。
サラが店を飛び出していく時の、あの顔が脳裏を離れない。あんな事を言うつもりじゃなかったのは、あの困った泣き顔を見れば分かる。彼女の言いかけた『不安な事』、それが邪魔して小生に言えなくなってしまったんだろう。

あぁ、でも。
小生に話してほしかった。
相談してくれなかったのがこんなに寂しいとはね。

「……何ヨ。落ち込んでんの?そういや、あの前の舞踏会で会ったオンナはどーしたの?」
「……」

意外と勘が鋭いらしい。
勝手に棺桶に腰掛けて、ニヤニヤと小生の事を見てくる。

「あ、もしかしてケンカ? 丁度いいじゃない!このままアタシに乗り換えても――」
「何が丁度いいんだか分かんないんだけどな〜」 
「何よ、つまんない。出てかれちゃったの〜?良い男はやっぱりオンナを泣かせるわねェ」

「こんな話をしてる場合じゃなかった」と、彼は小生にリストを見せつけてくる。
ざっくり眼を通すとそれは全員、死因が自殺の死亡者リストだった。

「こんなに自殺が多いの、明らかにおかしいわよねェ?確実に自殺を誘ってる人間がいるってカンジ?」
「……そうかもねぇ」
「死神協会的にも困る問題があんの。こちとらちゃんと天寿を全うする人間にはちゃんとしてもらわなきゃ。アタシ達の仕事が倍になっちゃう!」

そう、このままではサラが危険かもしれない。きっと彼女の事だ。リュミエールの教会へ足を運んだに違いない。
深く、一度息を吸う。
もう一度、彼女に会って話さなくてはいけない。今度はキチンとサラの話を聞き、不安を取り除いてやらなければならない。きっと彼女は優しいから、今頃ひどく傷ついているだろう。

「しょーがないから小生が案内してあげようかな〜」
「そんな事言っちゃって!アンタのオンナもそこにいるみたいネェ」

サメのような歯をにんまりさせて、笑う。彼の言う女の勘、というのは本当に馬鹿にはできないらしい。

「走って追いかけてきてほしいモンなのよ、オンナは」
「キミ、女じゃないでしょ?」
「そう!『恋する乙女』よ!!」

バチンと音がなりそうなウインクを送られた。



***





リュミエールの建物が月に照らされて青白く照らされている。建物は静かで人気は無い。しかし、そこには見慣れた人物が二人、小生を出迎えた。

「おやおや、伯爵。…と、執事君。」
「良い夜ですね、葬儀屋さん」

彼がいるといることは、リュミエールは『黒』という事。この静寂を遮るようにグレルが執事君に黄色い歓声をあげながら飛びついた。

「ヤッダァ〜!!セバスちゃん、久しぶり!!こんな所で逢えるなんて感激ヨ!!」
「少々静かにして頂けませんか。これから潜入するというのに、台無しです」
「つれない男!そんなトコロが堪らない!!」
「おい!いい加減にいろ!」

伯爵の言葉でやっとひと段落し、お互いの情報を軽くやり取りして小生達は教会内へと潜入する事となった。
執事君がピッキングで鍵を開けると、静かに扉を開き内部へと4人は入る。

「アラ、地下もあるみたいよ?」

彼が指差す方向に地下へ続く階段がある。そこを抜けて廊下を進めばいくつかの部屋が存在した。そのひとつは特別広く、他とは作りが違う。

「…教祖であるエリク・バローの部屋か?」
「しかし、人がいませんね。情報では信者が共同生活をしていると噂がありましたが…」

殺風景な部屋。
ただ、真っ白なのが逆に気味が悪くも感じた。その中に小さな花瓶がひとつテーブルに置かれている。

「これは…」

サラが数日前に持ってきたスノードロップに間違いない。あの子の事だ、きっとここにも寄ってお裾分けでもしたのかもしれない。小生の部屋に飾ったものはまだ枯れていないのに、ここにある花はすっかり枯れきっている。

明らかに手入れをしていない。
飾るだけ飾った、そんな感じだった。

「サラはここにいる」

そう確信を持ち、4人でこの部屋を隅々まで調べた。
そうしてひとつの棚を調べると裏から風が抜けているのに気がつき、動かしてみる。鈍い音を立てて、その裏にはさらに地下へと繋ぐ階段が現れた。

「音の響きからして、かなり広いようです」
「それに、人の声もするワ。これはアタリなんじゃない?その教祖をお仕置きすれば良いんデショ?」

やっと真紅の死神と意見合いそうだ。

「そうだねェ、とびっきりの仕置きが必要そうだ」



To be continued….
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