ユメウツツ



『カルト教団教祖、獄中自殺!』

朝の新聞の記事にそうあった。
その新聞一読して暖炉の火へと放り込む。ベッドを覗くとまだサラが可愛らしい顔をして眠っていた。恐ろしい思いをした彼女にはあの男の事をさっさと忘れてほしい。

「大体、他の男の事を考えられるのは苛々するしねェ」

ここ2日ほど彼女を家の外に出していない。彼女もあまり自分から外出しようとしないのは、外があのニュースで溢れているからだろう。
リュミエールがまさか自殺志願者の集まりだったなんて。あんなに優しかった人達が、そんな筈はない。そんな事を人間達は話していた。
あの男の何も映さないような虚無感のある瞳を思い出した。
エリク・バローという男は何も期待していなかったのだろう。
自分を誰も救ってはくれないと、諦めていた。死に場所を求めていて、やっと死ぬる事が出来たようだ。

「全くと言って良いほど、意味がない」

人間が人間を本当の意味で救うなんて無理だ。それでも何かに縋りたくて仕方ないのが人間なのだけれどね。

「……んぅ、…アンダーテイカー……?」

小生の可愛い子猫が起き上がってきた。寝起きの可愛らしい顔を拝もうと彼女に近づいて驚く。彼女の両眼からぽろぽろと涙が溢れ落ちているからだ。

「どうしたんだい?嫌な夢でも見たのかい?」

彼女の髪を撫でて、涙を拭ってやる。彼女は不思議そうに首を傾げる。どうやら泣いている事を自覚してないらしい。
涙を流しながら、彼女は小生を見て愛らしい笑顔を向けてくる。

「あのね、お父さんとお母さんの名前…思い出せたの……」
「え?」
「突然なんだけど……でも、思い出させてよかった……」

嬉し泣きを、彼女はしていたらしい。
でも、良かった。
あれから、ベッドの上で気になっていた彼女が不安に思っていた事を片っ端から聞き出した。全部吐き出すと彼女は急に晴れた顔をして、久しぶりに本当の意味で笑ってくれたのだ。

「何か、また…。思い出させてない事を思い出すかな…?」
「まだあるのかい?」
「ん……、何かあるような気がする……」

眠そうな声を上げて彼女はまた毛布に包まる。

――かなり、無理させたからなァ…。

ベッドの上でかなりがっついてしまったのを思い出してしまう。仕方ない、仕方ない。これも彼女を不安にさせないためだった。
毛布からサラの手が伸びてきて、小生の手を触る。

「アンダーテイカーも……一緒に寝よ……?」

――うわぁ、何それ。誘ってる?
お言葉に甘えて一緒に毛布に包まると、彼女の既に寝息を立てていた。

「生殺し……ズルイなァ、ホント」

彼女がやっと小生の元に帰ってきた。
彼女の寝顔を見てそう思う。

暖炉がパチリと音を立てた。一度、暖炉に目を向けると先程放り込んだ新聞が真っ黒になって消えていく。
その様子を見て安堵し、小生もまたサラを抱きしめてキスを落としてから眠りに落ちた。


end.
『マザーファッカーズ・オペラ』愚か者の歌劇
2020.1.4.
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