誰が為に薔薇は咲く


日曜日。
私はチラシに書かれた地図に従って、リュミエールの教会に辿り着いた。小さいけれど真っ白な美しい教会で、ステンドグラスは月をかたどったデザインだろうか。
私が来た時にはもう、教会の前には人だかりが出来ていた。みんな何を待っているのだろう、そう思っていたら教会の出入り口の扉が開いた。

「皆さん、寒い中お待たせしました。どうぞお入り下さい」

係の人がみんなを誘導していく。参加しに来たのは老若男女様々だった。でも、やはり庶民が多いらしい。

「あの、すみません。初めてなんですけど…」
「おや! 貴女は前の…!」

たまたま声をかけた青年は、あの日チラシをくれた彼だった。彼は、私が来てくれたことをとても喜んでくれて中に案内してくれる。立ち見の人も少しいるくらい、中には人が入っていた。
彼は私を教祖の話が聞きやすい席へ案内してくれた。少しすると奥の扉からスラっとした背の高い男性が入ってきて、私たちを見渡してニコリと微笑んだ。

「皆さん、今日はどうも集まってくれてありがとうございます。私はリュミエールの代表のエリク・バローと申します」

薄い金髪と、透き通るような蒼いの瞳。物憂げな雰囲気を醸し出した、少し人間離れしたような容姿をしたのがエリク・バローという人物だった。
穏やかな笑顔を浮かべると周りの女性たちが小さく黄色い歓声を上げる。
なんだか教祖様、というイメージからかけ離れているように感じた。

「僕は皆さんを救いたいのです。 貧しさや生まれや罪を苦しまなくて良いんです。みんなは平等なんですから、好きに生きて良いはずなんです。」

彼はなるべく難しくない言葉を使って、誰にでもわかるように私達に自分の想いを語る。
何も自分の障害にはならない、もしやりたい事があるならやってみるべきなんだと彼は繰り返す。そして、その成功をまだ行動に移せない人々に伝えてみないか、という。
彼の話は30分ほど続き、終わる頃にはみんな涙して最後は拍手で終わった。

「ボランティアの人手が足りていないんです。もし、興味がある方はこの後僕のところへ来てくださいね」

みんなが帰っていく中、私はエリクさんに声をかける。

「あ、あの…。ボランティアのことを伺いたくて…」
「おや、嬉しいですね。初めていらっしゃった方かな?」

彼と目が合うとどうしてか自分の恋人と、雰囲気が似ていると何故か思ってしまう。
アンダーテイカーは確かに死神で、浮世離れしているがこのエリクさんは人間なのに。エリクさんが首を傾げているのに気付いて、私は慌てて質問をする。

「えっと、前炊き出しをしているのを見かけてこちらに伺ったんです。私にもお手伝いさせて頂けますか?」
「もちろんですよ。どうもありがとう」

エリクさんは私に手伝いの詳細を教えてくれた。彼が演説中にも思ったけれどエリクさんの声は何だか聴き心地が良くてずっと聞いていたかった。

「…貴女は」

エリクさんが突然、ぽつり、と呟く。
私の耳元で彼が囁いた。


――何から"救われたい"んですか?


「えっ」

私が思わず固まっていると彼はニコリと笑う。

「いいえ、深い意味は無いんですよ?ただね、ここに来る人は何かしら悩みがあるものですから」
「あ……、な、なるほど……」

私は教会から出て、アンダーテイカーがいる家へと向かう。
なぜかずっとさっきエリクさんに言われた言葉が頭から離れてくれない。別に、今の自分に悩みなんて無いのに。
私はとっくに救われている。記憶を一度無くしたけれど、沢山の人のおかげで取り戻すこと出来たし、何より私には愛しい人がいる。

本当に私は、ただボランティアに参加したいだけでここに今日が来たのだろうか?

「救われたい…?」

この言葉をずっと考えながら、私は坂道を下がっていった。


To be continued….


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