君が綴る幾千の情景を


今日はサラがリュミエールのボランティアに出掛けている。小生はひとり、店番をしているけれど、やはり彼女がいないと暇で仕方ない。今日はひとり『お客さん』がいる。
最近、少し彼女の元気がないような気がする。ふとサラを見るとぼーっとしていて、何処か寂しげで。声を掛ければ、いつもの可愛らしい笑顔に戻るけど…。

「なーんか変なんだよねェ」

『お客さん』が入る袋を開けて顔を見る。
若い男で、年もまだ若い。だけど――。

「んー?」

――綺麗すぎる、と思った。
小生の『お客さん』はみんな、基本的にはあまり見れたものではないものが多いけれど、ここまで綺麗にそのままな人は少ない。
奇妙なまでの、安らかな死に顔だった。それも珍しい。ただ、その安らかな顔と反して服は泥で塗れて、所々千切れてさえいた。靴も見当たらなかったと聞く。
確かこの『お客さん』は近郊の森に倒れていたが、身元不明という。

「……病死かねぇ」

――でも、それにしては。
そう思っていた時、店のドアが開く音がした。店の方へと戻るとそこにはファントムハイヴ伯爵と執事君がいた。

「邪魔するぞ、アンダーテイカー」
「おや、いらっしゃ〜い」

執事くんと目が合う。
正直、入って欲しくないけど、まぁ今日はサラがいないから許してあげよう。

「今日はなんの御用かな?もちろん、対価は笑いだよ、笑い。…あぁ、少し待っていておくれ、今紅茶を入れよう」

紅茶を入れてから、ゆっくり鑑賞しよう。
そうだ、たまには伯爵にやってもらおうかな。

「リュミエール、という名前。知ってるか?」

その名前を聞いて思わず足が止まった。どうして伯爵からその名前が出てくるのか。嫌な予感しかしない。
一瞬で、小生の思考は動き回って、最終的にあの子の笑顔が浮かんだ。

「最近できた新宗教らしいんだがな。良くない噂がある。」

信者になった者が、教会から帰って来なくなる。信仰にはまり、その家族もそのうち飽きて帰ってくるだろうと思っていてもそのまま帰ってこないという。
教会に迎えに行っても、聞く耳を持たない。そんな強い信仰心を持つ者同士で『家族』と呼び合い、深いつながりを持ち合う。

それまではまだ良かった。

「集団自殺が多発しています。」

ここ最近5、6人の集団が死んでいるところを度々発見されるらしい。自殺方法は何かの薬を投与して死亡。皆、眠るように安らかな死に顔で。

「その集団自殺にリュミエールが関与しているのではないか、と噂があってな。まぁ、まだ証拠がないんだが…」
「……そうかい。」

小生の口から出たのはそれだけだった。
玄関に向かい、ドアに手をかけたところで、伯爵が声をかけてきた気がするけど、そんな声はほぼ聞こえていなかった。
道に出て、リュミエールの教会へ向かう。

サラがそのまま帰ってこなかったら?そんな事があったら気が狂う、と本当に思う。
道を曲がろうとした時、ドンと誰かにぶつかった。

「きゃ!? ア、アンダーテイカー?」

いつものあの声。
顔を上げると驚いた顔のサラ 。思わず彼女を抱き寄せると、「どうしたの?」とすっとんきょうな声を出した。

「何、なに? 痛いよ、アンダーテイカー!」

無事に帰って来てくれて安心したのか身体の力が抜けて、体重が彼女に掛かっていった。


ふたりで帰宅すると、伯爵と執事くんはまだそこにいた。
二人を外に出して、サラがリュミエールに通っている事を話せば驚いていた。ふたりに引き継ぎ調査を頼む。小生が出来る事ならなんでも協力すると約束して。
笑いの対価は今回はサービスしよう。

「もう彼女をリュミエールの教会には近づけさせないよ」

彼らの馬車が遠ざかっていくのを見送りながら、さっきの取り乱した自分を思い出して、恥ずかしいやら何やら。

――あぁ、でも。
――彼女がいないとダメなんだな。


To be continued….
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