その恋、完成間近


銀ちゃんが珍しく、自分から出かけようと行ってきた。そんなことだけで私は嬉しくなってしまって、銀ちゃんの気が変わらないうちにと出かける用意する。

「どこに行くの?」
「んー、秘密」

何度聞いても、曖昧にしか答えないできちんと教えてくれない。出かけられるだけで嬉しいは嬉しいのだけど――。
歌舞伎町を抜けてしばらく歩き続ける。
田舎道に出て、私達の街は後ろの方に小さくなっていた。

すると、前を歩いていた銀ちゃんが急に土手を登り始めた。

「ま、待ってよ!」

着物で動きづらくて登るのが大変だ。
銀ちゃんはくるりと振り返ると、少しめんどくさそうな顔をして「ほらよ」と手を差し伸べてくれた。銀ちゃんの手に引かれて、ぐいぐい登っていく。そういえば今日は随分、彼の口数が少ない気がする。いつもならどーでもいいような事とか、いきなり下ネタに話が行ったりするのに……。

「アヤ、着いたぞ」

上まで上がると、私の目の前は桜色一色。
満開の桜が一面に咲いていたのだ。こんな場所、あの広い歌舞伎町にだって見たことがない。

「すごい、銀ちゃん……!こんなところ知ってたんだ……!」
「……お前、桜見たいとか言ってただろうが」
「……え」

――あれはまだ冬の頃だったのに。
まだ真冬の頃に、大好きな桜が見たくなった。銀ちゃんに「まだ咲かねぇよ」と呆れた答えをされた。

「覚えてたの?」
「なんだよ、悪いかよ?」
「……ううん、ありがと銀ちゃん」
「……」

ひらひらと桜が舞う。
また今年も咲いてくれたのか。
見惚れていると、銀ちゃんに肩を掴まれてそのままキスをされた。

「……ぎ、んちゃん?」
「……また、来年も来るか、俺と?」
「……う、うん」
「来年も、そん次も、俺と来てくれるか?」

――何これ。
――銀ちゃん、もしかして。

「……プロポー……」
「ああああっ!!い、言うな馬鹿!!何か恥ずかしいだろうがっ!!」

さっきまで真剣な顔をしてたくせに一瞬で崩れて、今度は真っ赤な顔になった。

――そうか、私、プロポーズされたのか。

改めて考えると、ちょっと恥ずかしい。
だけど、やっぱり嬉しくて顔がニヤける。

「……んで、答えは?」

断る理由なんてあるはずが無いのに、こんなことを聞くなんてズルイ。だから、私も少しズルイことをしてみようかな。

「銀ちゃん。桜の花びらを地面に着く前に取れると願い事が叶うんだって」
「……は?」
「願い事があるわけじゃないけどさ。花びら、銀ちゃんが取れたら結婚してあげる」

銀ちゃんは首を傾げて、迷っていた。

「……それが条件なわけ?」
「うん、そう」
「……はっ、そんなことならいくらだってやってやらぁ!」

――ほら、ノッてきた。
馬鹿、というか、馬鹿正直というか。
銀ちゃんは満開の桜の中に突っ走って行って、早速取ろうと必死になっている。

「銀ちゃーん、ちゃんとお願い事考えてるー?」
「あぁ?今の俺には1個しかねぇよ!」
「なーに?私とずっと一緒にいたいとか?」
「……っ、そうだよ!その通りですよ!!」

あんな頑張って動いている銀ちゃんは久しぶりに見たな。桜に弄ばれているお侍、なかなか可笑しな図になってしまっている。

――半分冗談だったのに。
アレは取るまで帰れそうにないな。

銀ちゃんがスライディングをした。砂煙りの中で銀ちゃんが立ち上がらない。私は銀ちゃんの側に駆け寄ると、ぐいっと腰を引き寄せられて銀ちゃんに抱き締められた。

「ほら、取ったぞ」

銀ちゃんの大きな手には桜の花びらが2枚あった。私はお見事、と拍手をすると銀ちゃんが着物に付いた砂を払いながら聞いてきた。

「コレでいいか?」
「……うん、もう満足」
「よーし、帰るかアヤ」
「また来ようね」

銀ちゃんにもらった桜の花びら。
帰ったら押し花にでもしようかな。

咲く華、散る華、君の華
(なぁなぁ、どっちが良いわけ?)
(何がー?)
(ウエディングドレスか白無垢)
(うーん、やっぱりソコなのね)

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