盲目的恋情


*学パロ


日直の仕事だった日誌を書くのをすっかり忘れて、私は放課後の教室でひとりいた。

先生はテキトーに書いとけだなんて言っていたけど……。

日直の仕事は嫌いじゃなかった。この日は先生と喋れるから。私は正直、この濃ゆいクラスではあまり目立たない人間だから先生とは関わりが少ない。でも、本当は銀八先生と話してみたいと思っている。

――好きだった。

いつもいつも面倒くさそうにしているけれど、先生としてやる時はやる。そんな所が私は好きになった。

でも、先生と生徒という立場の壁がある。
もう卒業も違い。私のこの恋は卒業と同時に叶わずに終わっていくのだろう。

それで良いと、思っていた。

「おー、藤堂。書き終わったか?」

顔を上げると、銀八先生がふらりと入ってきていた。私は慌てて止まっていたペンを動かす。

「も、もう少しですからっ」
「おー」

教室に先生とふたりだけ、先生の顔を見る事ができなかった。心臓が急に騒がしくなる。ガタンという音に目だけ動かすと、私の前の席に先生が座って私をじっと見ていた。

「せっ、先生……!?」
「ん?待っててやるから書いちゃえよ」

――ち、近い。
私の顔は真っ赤になっていないだろうか。
とにかく、日誌を全て書いてしまおう。

「俺、テキトーで良いって言ったろ?前のページ見てみろよ、ひっでぇぞ」
「……ぅ。な、尚更私はちゃんと書かないと……」
「へー、アヤは偉いのなぁ」

あれ……?
先生は今、私の名前を呼んだ。いつも名字だったのに先生は今、私の事をアヤと言った。

何で?
そう思っていると先生があることを切り出した。

「……お前さぁ、好きなヤツとかいんの?」
「え!?」
「やっぱ女子高生だろー、青春しちゃってるわけ?」
「そ、そんな……いませんよ」

いない。たぶん、先生が指してるのは生徒と生徒の恋愛をしているかということ。だったらしたこと無い。この3年間ずっと、先生だけを見てきていたからだ。

「いないの?カレシとか?」
「いないですよ、もう卒業も近いし」
「……へぇ」

先生がボーッと窓から外を見だした。何を考えているか分からなくて、ただただひたすら日誌を書き進める。

「……じゃあさ、高校生活最後に……俺と青春してみね?」
「……え」

――なんて、言ったの?
顔をゆっくりと上げると先生と目が合う。白い前髪の間から真剣な目がこちらを見据えていた。

「……あの……」
「……いや、わりぃ。こんなこと言われて困んのはお前の方だな」

先生はポリポリと頭を掻いて、私の言葉を遮った。

今のは、本当に――。
"そういう"意味で言ったのだろうか?

「ごめんな、忘れてくれや」
「……え、先生……」
「……教師と、生徒だなんてムリだな」
「……っ」

――それを言わないで……!
先生は「職員室持ってきてな」と一言言って席を立った。

――待って、待って――

「先生!」

私は気付いたら立って、先生を呼んでいた。私は立ち止まった先生の腕を掴む。もう、こうなってしまったからには言うしかないだろう。

私は覚悟を決めて顔を上げた。

「先生……好きです」
「……!」
「ずっと、3年間……好きでした」

最後の方は声が震えてしまって、上手く伝えれただろうか。いつの間にか私は先生の腕の中にいた。

「……本当か、アヤ」
「……はい、先生」
「先生だぞ、俺。」
「先生が良いんです」

夢のようだった。
こんなことになるなんて想像できなかったから。先生の大きくて温かい手で頭を撫でられて涙が出てきた。

「オイオイ泣くなよ、イヤなのかよ」
「ち、ちがっ……」

先生の笑顔をこんな近くで見れているなんて、私はとんでもないことをしてしまった
。けれど、なにも後悔はない。

「あーあー、卒業までアヤとイチャつけねぇのは残念だわ」
「……っ!」
「安心しろ、銀さんは先生なんだかんな。卒業まで手は出さねぇよ」

先生は私の耳元に口を近づけてボソリと呟いた。

「卒業したら覚悟しとけ、アヤ」

恋愛は時に刃


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