僕等、白い空の下。


「なー、海行かね?」

本当に唐突だった。
銀ちゃんがボソッと言ったこの言葉から万事屋の3人とお妙さんを誘って海に行くことになった。

かぶき町から一番近いビーチまでバスで向かう。バスの中でどうしてか銀ちゃんは終始ご機嫌だった。

だけど、ビーチに着いたら眉間に皺を寄せて視線の先にいる団体に「チッ」と聞こえるように舌打ちをした。

「おい、公僕共。市民の税金で生きてるくせにビーチに遊びに来てんのか?むさ苦しいんだよ、ビーチで男の人口増やしたとこで何も嬉しかねぇんだよ」
「誰が公僕だ!!これは立派な仕事だ、ビーチの安全を守りに来たんだよ!」

ビーチには真選組がいたために、銀ちゃんはいきなり土方さんと火花を散らし始めた。
どうしていつもこうなっちゃうんだろう……。

「なんでィ、アヤも来てたのか」
「沖田さん…、もうあの2人何とかして下さい……」

しれっと沖田さんは例の2人を見ている。銀ちゃんはひとしきり土方さんと言い合うと私の方にズンズン向かってきた。

「アヤ、さっさと泳ぎに行くぞ。なにタオルに包まってんだよ」
「えっ、ちょっと待って銀ちゃん…!」
「浮き輪持ってきたから大丈夫だ、溺れねぇよ」
「ち、ちが…キャア!」

銀ちゃんに無理矢理羽織っていたタオルを剥がされる。

どうしてタオルに包まっていたかと言うと、新しくした水着に少し自信がなかったから。銀ちゃんからの反応がない。それどころか、真選組の皆さんも急に静かになっていた。

やっぱり初めてビキニを着てみたが、私には似合わなかったんだ……。

「銀ちゃん、私……っ」

ーー着替えてくる。
そう言おうとした時、身体に浮き輪をスポリと通されて銀ちゃんに強引に腕を引っ張られた。




「……ぎ、銀ちゃん?」
「……」

浮き輪につかまったまま、銀ちゃんは何も言わないでしばらく2人で浮かんでいる。みんなに何も言わずに海に出てきてしまったけれど、大丈夫だろうか。

「銀ちゃん、そろそろ戻ろうよ。あ、みんなでビーチバレーしよって話になってて……」
「誰だ!!ンな卑猥なスポーツやらせようとしてんのは!?」
「……うわっ、えと新八君とか神楽ちゃんが……。」
「あのダメガネ!! 思春期真っ盛りな考えしてんじゃねぇよ、2度と目ェ開けられねぇようにしてやる!」
「……ひ、卑猥…なんだ…」

やっと水面から顔を上げた銀ちゃんと目が合うと、銀ちゃんはなぜかまた慌てて目を逸らした。

「……銀ちゃん、どうしたの?」
「あー…? アヤチャンよぉ、その白ビキニはどーしたの」
「あの、新しく買ったの……。やっぱり似合わないよね……」
「……あのなぁ、白にフリルは反則だろうが。男は全員弱いっつーの」
「え?」

銀ちゃんの顔が赤くなっていて、「いいか?」と浮き輪に体重をかけて私に顔を近づける。

「ンな姿を俺以外に見せんじゃねぇよ」
「……っ」

海に入っているのに身体が熱くなるのを感じた。まさかこんな言葉が銀ちゃんの口から出るなんて思わなかった。「ありがと…」と言うとニヤリと銀ちゃんがいつもの笑みを浮かべた。

「こんだけ離れりゃ大丈夫だろ」
「えっ、銀ちゃんなんでヒモ解こうとしてるの!?」
「水ん中ってのも興奮すると思ってなー、コラ暴れんな」
「ヤダヤダ!もう、放してぇ!!」
「イテッ!!」

抵抗していたら、私のキックが銀ちゃんのお腹にクリティカルヒットしたらしい。銀ちゃんが沈んだうちに私は必死にバタ足をして危ない彼から離れた。

「ちょっ、待っ! アヤチャン!? 助けてくれるよね、戻ってきてくれるよゴホッ!」
「バカ、銀ちゃんのバカ!」

せっかく褒めてくれたと思ったのに……。
でも、まぁーー。

「ちょっと反省しなさいっ」

予想以上の反応が少し、本当に少し嬉しかったりした。

しょっぱい想いを飲み込んで
(うへっ、死ぬかと思った…)
(銀ちゃんホントに泳げないんだね)


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