秘めた想いは熟れて食べ頃



私は教室にひとり取り残されていた。私の手には今日返されたテストがあるのだが、これに苦しめられているのだ。

「最悪だ…」

そう、過去最低の点数を取ってしまったのだ。坂田先生からも「ちょっとマズイんじゃね?」と言われたんだから、もうそれはそれはマズイんだろう。勉強は一応やったのに、どうして私はこうも本番に弱いんだろう。何度見たところで点数が上がったりするワケじゃないのに、さっきからずっと立ち上がれずにいた。

「おい、何してんだ」
「…あ、総悟君」

クラスメイトの総悟君がクラスに入ってきた。私はてっきりもう帰ったと思ってたのに。彼は手にアイスを持ってそこにいた。

「ん」
「え?いいの?」
「まぁ、食いなせェ。んで、何してんだ」
「え、えと…」

総悟君は私にひとつソーダのアイスをくれた。それはありがたいけど、私の持っているこのお粗末な物を見せるには羞恥心が働いた。私が咄嗟に隠そうとする前に総悟君はそれを私から取り上げてしまった。

「これホントにアヤのテストかィ?」
「あーもう!見ないでよ!」

総悟君から奪い返すと、私はやっとカバンの中にしまった。やっぱり誰から見てもこの点数はマズかったんだ。そして、これは現実なんだ……。

「オレはもうちょいアヤは優秀だと思ってたけどな」
「そんな優秀じゃないよ。……今回は特に酷いけどさ」

総悟君が前の席に座った。私はもらったアイスの袋を開けて口に入れた。冷たくて、美味しい。ちょっとだけ、本当にちょっとイライラがこのアイスのおかげで収まった気がする。

「総悟君は今回どうだった?」
「別にフツー。フツーの勉強しかしてねェし」
「そっか…、総悟君って器用だよね。なんでもサラッとできるもんね」
「なんでぃ、嫌味か?」

――ううん、本心。
そう、嫌味っていうか、羨ましくてさ。
しかし、どうしよう。次のテストまで1ヶ月しかない。どうにか対策を立てて挽回しないと私はみんなに先に卒業されてしまうかもしれない。

「そうだ、坂田先生に勉強付き合ってもらおうかな?」
「……」
「十四郎君とかも頼めば手伝ってくれるかな?できる人に教えてもらう方が…」
「……おい」

総悟君のいつもより低い声に思わず、口が止まってしまった。不機嫌そうな総悟君に「なに?」と聞き返すと、すでに食べ終わっていたアイスの棒を向けられた。

「いいか、いくら教えてもらったって自分に合った勉強方じゃなきゃ頭になんか入んねェんだよ」
「そ、そうなの?」
「お前はまず自分に合った勉強方を見つけるのが先だろーが」
「……なるほど、そっか。確かにそうかも」

妙に納得しちゃった。
私、ただただひたすらやればいいって思ってたかもしれない。

「…あと、分かんねェならオレに聞きなせェ。教えてやる」
「え、総悟君が?」
「イヤかよ?」
「ううん…」

私がよろしくお願いします、と言うと総悟君はニヤリと笑って「帰るか」と立ち上がった。私も立ち上がって改めてアイスのお礼を言った。

「ん、当たってるぞアヤ」
「ホントだアタリだ!」

もうひとつもらって帰ろう、私たちは少し寄り道して帰ることになった。


最後の一歩が踏み出せない
(またの機会にするか…)
(なに、総悟君?)

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