星を拾った




満月の夜だった。
イトリさんの店から自分の店に戻ろうと帰路に着いていた。真っ直ぐ帰るのもつまらないからフラフラと夜風に吹かれながら散歩していた時。

路地裏の闇の中で短い悲鳴が聞こえた。それに強い血の匂い。真新しい大量の血が流れた証拠だ。こんなことは夜の路地裏でなんか別に珍しくない。

でも、どうしてか気になった。不思議と足がそちらに向いて勝手に進んでいく。

真っ暗な道を進んで行くと、急に開けた場所に出た。初めて見る場所には人間の死体の山が出来上がり、動く者はいない。

――もうお食事は終わっちゃったのかな。

来た道を戻ろうとした時、奥から歌が聞こえた。綺麗な声をした悲しい旋律の歌。

さらに足を進めるとまるでステージのような場所があり、そこにひとり女の子が立っていた。軽やかなステップをしながら血に染まった真っ白なワンピースを翻す姿はこの暗闇の中でそこだけ輝いているようだ。

――キレイだとそう思った。

しばらく見ていると、女の子は大きな動きをして言う。

「『どうして人は死ななければならないの。死んだほうが幸せだからなの?』」

まるで死体に向けて演劇をしているかのようだった。ただお客さん達は無反応で、血を流すばかりだ。

代わりと言ってはなんだけれど、僕は彼女に拍手を送った。少女は驚いた顔をして僕を見ている。丸い眼をした、可愛いらしい顔。けれど眼は僕らと同じ赫眼だった。

「上手だね」
「……ホント?」

少女はニッコリと笑った。
本当に本当に嬉しそうにして、くるくる回り始める。

「嬉しい!初めてのお客さん!みーんな劇が終わる頃には死んじゃうの」
「その劇は何?」
「『女吸血鬼カーミラ』、私はカーミラ役なの」
「吸血鬼?喰種と似てるのかなぁ」

彼女に手を差し伸べる。
少女は首を傾げて僕を見た。

「お嬢さん、きみの名前が知りたいな」
「……コハルよ。あなたはお客さん?」
「僕はウタ。ねぇ、仮面なんか演技に必要じゃないかな?僕が作ってあげるよ」
「ホントに?欲しい、作ってウタ!」

コハルはステージから飛び降りて僕に飛びついてきた。受け止めた彼女はふわりと軽く、やっぱり似つかわしくない濃い血の匂いを漂わせている。


キレイな、キレイな役者を僕は拾った。

美しい物はすぐそばに隠れてる

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