温度に心臓が溶けそうだ
CCG最強の男、有馬貴将特等捜査官。
どういうわけか先日、この人にいきなり告白された。
と言っても正直本当に"そういう意味"で言われたのか分からないでいた。なんせ、相手は必要最低限の事しか伝えない人なのだから。
『付き合おっかコハル』
『はい?』
『じゃあ、そういうことで』
『は?ちょ、ちょっと貴将さん!?』
――これだけの会話。
そういう意味ならまぁ、嬉しいけれど、せめて私の返事を聞いてほしかった。それからどうして私なんだということだ。確かに貴将さんのチームの一員に入れてもらっているが、私なんてまだまだだというのに。
平子さんや暁さんに相談したいけれど、もし違ったら私はただの思い違いな女になってしまうと思いひとりで悶々と悩んでいた。
ディスクでそんな事を考えていると、貴将さんが任務から帰ってきたらしい。入ってくるなり、すぐに部下に囲まれている。エリートにはエリートの苦労があるんだろうが、貴将さんは表情もなかなか出ない人だからあるのかどうか……。
――本当に告白されたのかな、私。
考えれば考えるほど夢だったんじゃないのかと思う。
「コハル」
ハッと気づくと目の前にはかの張本人、貴将さんが私を見下ろしていた。
「…えっ…うわぁ!き、貴将さ……っ!」
「どうしたの?」
「いえっ、べ、別に!」
「……」
――どどどどうしよ。
仕事をサボって、ぼーっとしていたと思われたに違いない。慌ててディスクに向き合う私を差し置いて、貴将さんはこんなことを言った。
「今度、食事なんかどうかな?」
「……」
――ん?
仕事場に一瞬、沈黙が流れた。
私がチラリと貴将さんを見ると、彼は小首を傾げて私を見ている。
「ん、食事は嫌?だったらどこか行く?でも休み取れるかな…」
「……いや、あの貴将さん」
どうしてこの人はこんなに天然なんだ!?
平子さんが貴将さんの後ろから「どうしたんだ」という顔をして見ている。
みんなのそんな視線が痛くて私は思わず立ち上がる。
「ちょっと、貴将さんいいですか!」
貴将さんの腕を引っつかんで私は足早に仕事場を出た。
中庭の端の方まで振りかえずに走ってきた。貴将さんを見ると、私と違って息が上がらず相変わらず首を傾げている。
「……あの、貴将さん……」
「なに?」
慌てて、焦っているのは私だけだ。
私はなるべく息を整えて、貴将さんに正直に聞こうと決めた。この人はちゃんと聞かないとちゃんとした答えをもらえそうにないから。
「前の、その『付き合おっか』っていうのはどういう意味ですか?」
「……どうって……」
「だから、こ、恋人ってことでいいんですか……?」
「うん」
当たり前、みたいに言われた……。
貴将さんはやっと私が言いたい事が分かったらしく「あぁ」と閃いた声を出した。
「伝わってなかったの?」
「だ、だって……何で私なんですか!私なんて捜査官としてまだまだだし、貴将さんと釣り合わないし……!」
「釣り合う釣り合わないじゃなくて、コハルが好きだからっていう理由じゃ駄目なの?」
「……っ!」
――天然って、怖いな……。
今度は逆に直球で言われて、私は全身が熱くなるのを感じた。
「付き合ってくれる?コハル」
「……」
本当に私で良いのか、迷う。
けれど私は貴将さんを尊敬していた。それは好意と言われれば否定はできない。
だから、私は首を縦に振った。
「そっか、良かった」
顔を上げると、貴将さんの顔が至近距離にあり口に何か当たった。貴将さんは今度は私の腕を掴んで「戻ろうか」と笑う。
それから会議の時間に貴将さんは唐突に私との関係を暴露した。
嘘偽りなく好き
(あの有馬特等を落とすとは君もやるな)
(暁さん…早速振り回されているんですが…)
*『またひとつ、忘れたくない思い出』に続く
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