息苦しささえ感じる
私は今、4区にあるマスク屋さんに来ていた。
ある時たまたま4区に来ていたら、ふと目に付いたお店がウタさんのマスク屋さん。興味本意で中に入ったら、たくさんのマスクが飾られていて息を飲んだ。
「いいよ、好きに見て」
奥から出てきたウタさんは外見は怖かったけれど、それもすぐに無くなった。ウタさんも喰種だったから。
見た目に反しておっとりしていてマイペースな性格らしい。彼のマスクは繊細で、喰種のためだけには少しもったいない気もするぐらいだ。
「ウタさんは器用なんですね」
ウタさんの作業机を覗くと、またひとつマスクを作っているところだった。
「いいな、……私不器用だし」
「そうなの?」
「いろいろと出来ないんですよね、私……」
――あれ、私なんでこんな事話してるんだ?
こんな他愛ない話をしている中でも、私の心臓は高鳴っていた。よく私、こんなウタさんの近くに座れたな……。
ウタさんの顔を見たいけれど、視線に気づかれたら恥ずかしいからマスクを作っている手しか見れない。
――綺麗な手だなぁ……。
――タトゥーっていいなぁ……。
そんなことしか考えられなくなっていた。
「ねぇ、コハルさん。ここの生地、どれがいいかな?」
「…えっ!?あっ、えーっと……」
――ボーッとしてた……。
「……じゃあ、コレ……?」
「ん、分かった」
私が指差した生地をウタさんはぱっと取って縫い付けていく。私がなんとなく好きで決めてしまったものなのに。
「……ウタさん、それで良かったんですか?」
「うん」
なんだか、悪いな……。
生地のことなんか全く分からないのに。
「コハルさんが好きなら、それは僕も好きだし」
さらりと、そうウタさんは言った。
私はきちんと聞こえていたけれど、何も答えれなくて俯いてしまう。
――顔が熱い。
ちらりとウタさんを見ると相変わらずマスクを真剣な表情をして作っている。
別に深い意味なんてないんだろう。ウタさんは結構こういう事を平気で言っちゃうし。
それでも。
私の心臓はしばらく落ち着かないと思う。
本当はいっぱいいっぱいなんです
(じゃあ、次…コレとコレなら?)
(えと、こっち…)
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