どきどきを数えてる


さっきからバクバクと心臓が五月蝿い。シャワーを浴びて、髪を乾かし、それからなかなか洗面所から出れないでいた。
今日は初めてウタさんの家にお泊まりに来ていた。ウタさんのことは大好きだ、もちろん今日はそれなりの覚悟をして泊まりに来たのだ。意を決してゆっくりとリビングに向かう。

「ウタさん、出ました…」

声をかけてそろりとリビングに行くと、ウタさんはテレビを観ていた。手招きをされて行くと、ウタさんの膝の上に座らされる。ウタさんは私をこうするのが好きらしく、私も落ち着くから好きだった。
でも、今日はいつものことでも少し緊張する。

「湯加減ちょうど良かった?」
「う、うん。大丈夫っ」

テレビでは喰種の捕食事件のニュース。最近少し多いような印象を受ける。
ウタさんとは喰種だと知って付き合い始めた。気性が激しいのが喰種だと思っていたけれど優しくて穏やかなウタさんに惹かれて、付き合うことになった。
彼が淹れてくれたアイスコーヒーが喉を潤す。少しお風呂で温まり過ぎただろうか?
ウタさんの少し冷たい指が私のうなじを撫でて、そのくすぐったさに肩をすくませる。

「……ふふ、可愛い」
「え……きゃ!」

視点が反転して、私はソファに押し倒されたらしい。ウタさんの真っ赤なその眼は私を見下ろしている。
――あぁ、ついに。でも、ウタさんになら触れて欲しい。ウタさんのモノになら私はなりたい。ぎゅっと目を瞑って彼に全てを委ねる覚悟を再度決心する。

「……?」

しばらく待っていてもウタさんに動きはない。居た堪れなくなって、眼を開けるとその瞬間にキスをされた。それも啄むだけの口づけですぐに唇を離される。

「あ、の……?」
「緊張してたでしょ。……コハルさんのこと大事にしたいんだよね」

ウタさんの身体が覆い被さる。筋肉質なウタさんの身体が私の身体に密着すると、彼の心臓の音が直に伝わる。ウタさんの心臓も私の心臓と同じくらい激しく鼓動していることに気づく。

「僕だって緊張するよ」

大事にしたい、そう言ってくれて思わず涙が浮かぶ。焦ってしまっていたのは私の方で、やっぱりウタさんの方が大人だった。

「あ、……もしかして期待しててくれた?」
「えっ、ううん…っ!」

そろそろ寝ようかと、ウタさんにベッドに手を引かれて連れて行かれる。ウタさんは布団を捲って「どうぞ」と私を促す。そろそろとベッドに入るとウタさんは私を安心させるようにか、優しく頭を撫でてくれる。ふわふわのベッドの中で、最も落ち着くウタさんの腕の中に入れて私は幸せだ。

「明日は? 予定あるの?」
「ううん、ゆっくりできるよ……」

一応空けておいたから、明日はゆっくりとしていれる。ウタさんは明日は何処かに出掛けようと言ってくれた。

「ふふ、楽しみ」

わたしがそう笑ったら今度は額にキスを落とされて、次に頬。そして唇に深いキスをされて、思わず驚く。スキンシップが激しいウタさんだけれども、今日はいつもより激しい。

「……んぅ…っ」
「……困ったなぁ」

ウタさんの厚い胸板に閉じ込められる。顔を上げると、彼の嚇眼の双眸が私を見つめていた。その視線の強さに息を飲む。

「大事にするって言ったのに、長く持ちそうにないや」
「…っ!」

「覚悟しててね」と悪戯っ子のような顔してウタさんは言う。私はただただコクリと頷いて、彼は電気を消した。
その日、ウタさんは私の手を握って寝ただけで本当に手を出さなかった。大事にされているんだな、と私は相変わらず緊張したままでしばらく寝れなかった。


恋に堕ちて1回休み
(寝顔、可愛いね)
(ずるいよ、見ないで…っ)


ALICE+