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ふわあ、と大きな欠伸を一つ零しアカリは薄目で辺りを見回した。
四角く切り取られた少し黄ばんだ白い天井と真白のカーテン。波打つシーツの上で寝転びながら、ああ寝過ぎてしまったのだとアカリは漸く理解した。
枕元に放り出していたスマホの画面を付ければSNSの通知の上でアナログ時計が下校時刻であることを示している。
昼休みに少し昼寝と洒落込もうと思っただけなのにまさかもう夕方だなんて。アカリは目尻の涙を拭い取るとセーラー服の皺を気にせず上履きを履く。
アカリ以外誰一人いない保健室は夕陽に照らされオレンジに染まっていた。養護教諭の姿も勿論ない。ちゃらんぽらんで有名な養護教諭はいつも校舎裏で煙草を吸っているか保健室のベッドで寝ている。サボりにも寛大で、怪我人が来たら呼んでくれの一言で許される。そんな保健室をアカリは昼寝の場としてよく活用していた。
財布とスマホの充電器、お菓子やメイクポーチくらいしか入っていない軽すぎるリュックを背負ってカラスが鳴く帰路につく。

今日も今日とて、退屈な一日だった──────。
そう一人ごちる。朝食のトーストの焼き具合も満員電車の混み具合も嫌いな数学の授業も。何もかもがいつも通り。毎日が一本調子で、とても退屈。
アカリは平凡な日常が嫌いだった。だってつまらない。毎日毎日同じことの繰り返し。スマホの画面をスクロールするかのように単調な日々。

だから、夕陽がいつもより大きく見えるというだけでアカリの胸を高鳴らせた。日常を非日常に変えるきっかけとなるかもしれない。例えばイケメンが突然現れるとか、変な怪物に襲われるとか、人語を話す猫に出会うとか。
そんなファンタジー染みた妄想を期待しながら夕陽を見上げる。
ギラリ、と鈍くオレンジが輝いた。大きな大きな夕陽。妖しく輝くその光に思わず目を瞑る。

いつもの日常、いつもの平凡。瞼を開けた先に広がるのはそんな味気ないいつもの光景なのだと信じて疑わなかった。それなのに。

「…………………え?」

目の前に佇む、黒尽くめの男。湿った石造りの狭い部屋。
これは一体、何なのだろう。