※主人公も関西弁
※原作にでている情報以外は捏造です
※主人公、侑共にちょっと口が悪いので注意


▽


「なぁ、侑見てよコレ!めっちゃスゴない?自信作やで」


朝練が終わり、クラスメイトと適当に挨拶を済ませて席につけば、可愛い笑顔を携えた名前に開口一番にそう言われた。朝イチでそんなモン見せんな!テンションさがるわ。
そう思いながらも名前の話を聞く俺はクラスイチ優しい奴だと自画自賛。


「それ名前間違っとるぞ、俺は侑や!治とちゃう」
「ほんなら間違ってへんやん」


隣の席の名前は、装飾された自前のウチワを手に口を尖らせた。スパンコールやらなんやらでキラキラにデコってあるその真ん中には、丸っこい字で"治"と書かれてある。

喧嘩うっとるんか。

顔は同じ…いや、俺の方が男前やけど兄弟のウチワを見せられて喜ぶ奴はおらんやろ。しかも、それが好きな女の子からとなれば尚更や!
そんな俺の気持ちなんか一ミリたりとも知らないこの女は無邪気に心を抉ってきた。どこで何を見たのかは知らないけど、初めて同じクラスになった時からこいつは治のファンだった。


「私の推しは治くんやからな」
「はいはい、何回も聞きましたー。サムは名前の存在すら知らんやろうけどな」
「はいはい、ソレこそ何回も聞いてますぅー。知らんわけないやろ、喋ったことあるし」
「可愛い子やったら覚えとるかもなー」
「どういう意味やねん」


毎日毎日、治治治。なんで治やねん。なんで同じ顔やのにあいつが好かれて俺が好かれへんの?ずっと同じクラスなんも俺やし、毎日話すんも、連絡とるんも、ふざけあうんもサムじゃなくて俺やのに。
なーんて、顔には微塵も出さない。

最初はただ治に近づこうとする名前が気に入らなかった。自分をダシにされるのが我慢ならなかった。どうせミーハーな喧しい女やろうし、邪魔したろかな。
ただ、それだけの気持ちだったのに、本気で振り向かせたいと思い始めたのはいつからだったか。
俺がなに言うても凹まへんし、言い返してくるし、たまに見せる笑顔は結構可愛い。角名に「名字のことをスパイカーだと思えば?」と助言を受けたことはあるけど、知らんぷりした。何故、俺が名前のことを好きだと知っているのか。


「サムより俺のがカッコええやん!」
「どっちもカッコええよ!」
「お、おう…」


なんやねん、急に褒めてきよって!いきなりのことに動揺してしまったけど、それも束の間。あっけなく期待は打ち砕かれた。


「治くんの双子なんやから、侑もイケメンに決まっとるやろ?」
「結局サム基準かい!お前洗脳でも受けとるんか?一回、医者ついてったろか?」
「そんな優しさいらんわ!治くんはな、ちょっとクールなんかなって思たら意外と熱いやん?意外と負けず嫌いやん?食べとる時めっちゃ可愛いやんか!?見たことある?!ギャップ最高やで!」
「俺家族やし!見たなくても見てまうし!」


ちょっとうっとりしながら治のことを語る名前にイライラとゾワゾワが同時にやってくる。見たことあるもなにも、毎日同じ屋根の下暮らす双子の片割れに向かって何を言うやら。うふふ、と笑みを浮かべる名前にチクリと心臓のあたりが痛くなった。これは違う、断じて嫉妬などではない。


「ええなぁ!贅沢やなぁ!うーらーやーましーぃ」
「ぶりっ子すんなや、キモい」
「うっさい!」


カワイコぶりながら目をキラキラさせる名前に悪態をつくと、バシンと俺の二の腕を叩いてくる。怒っとるなぁ。反応が面白くてついニヤニヤ笑うと名前は、何笑とんねん!と更にプンプンしだした。怒った名前もまた可愛い。手にもった治のウチワがなければ。


「なぁなぁ、それちょっと貸してや」
「ええけど、変なことせんといてよ?次の試合で使うんやから」
「へいへい、何もしませーんよっ」
「ほんまに?絶対やで!したら怒るから!」
「もう怒っとるやん」


あと、お前が怒っても全然怖ないわ。という言葉はのみ込んで、ウチワを半分奪い取るようにして自分の机に置いた。黒地に白のポスカか何かで書かれた文字と、ペタペタと貼られたプリンやらオニギリやらのシールは名前が嬉しそうにコレを作った姿を想像させる。

なにが治やねん、ムカつく。


「これ、全然おもろないな。こんなんじゃサムも気づかんのとちゃう?」
「別に面白さは求めてないんやけど。…でもなぁ、私も結構装飾した割にはパンチにかけるかもって思とったんやー。確かに目立たんよなぁ」


名前が「何か足りん。うーん」と唸る横で、俺は修正ペンを取り出して、ちょっと書き足してやる。これええやん!我ながらエエのが出来たで!歯を見せて名前に笑いかけると、ちょっと赤くなった。


「フッフ、次これで来いって!インパクトあるし、サムもツッコムこと間違いなしやで!」


"治"の前に"手塚"と書き足されたウチワをジャーンと名前に向かって掲げると、一転して青くなる。ええリアクション頂きました。


「いや、別人やん!一人で誰応援してんねん!しかも字ぃ足りんし!どうせやったら治虫ってちゃんと書いて!?」
「春高もコレで来いって!テレビ写ったら絶対話題になるで!兵庫の宣伝にもちょうどええやん」
「私の話聞いてる?……って、待って!?ほんまに書いてるやんコレ!ちょっと何してくれとんよ!」
「アレンジ」
「うっさい、アホツム!!」
 

信じられへん!と涙目で声を荒げる名前に、俺はたまらず噴き出した。キッと睨まれてもやっぱり全然恐くない。腕を伸ばして取り返そうとする名前を避けて、ウチワをヒラヒラさせると悔しげに唸っていた。


「ごめんて!書き直すわ。名前はもっと全国的に有名なやつのファンやもんな、すまんすまん」
「ええから、もうやめてよ」
「ほら、これでどうや」


さっきの文字をぐるぐると塗りつぶして、今度は"明"と書いてみる。誰もが知る有名企業に大変身したウチワを見て、名前はワナワナと震えだした。


「私はスポンサーか?!企業の回しもんか?!」
「差し入れ頼むで」
「侑にはやらん!って、そんなんどうでもええんやって。もう怒らんから、な?それ、返して?」


今度は下手に出る作戦か!バレバレやで、名前チャン!
ニコニコしながら優しい口調で手を差し出してくるけど、相当怒っとるんか口元がヒクヒクしとる。そんなことで火のついた俺のイタズラ心は止められず、無視して再びペンをとった。
隣からガタッと席を立つ音が聞こえ、ウチワはあっという間に名前の手に渡る。


「なんも書いてへんて……表には。裏見てみ、裏」
「いつの間に!…"よりも侑"て…どういう意味?」
「治の面と合わせて読んでや」
「治、よりも侑…?しょーもなっ!」
「なんやと!」
「へっ、しょーもなっ!!」
「ボキャブラリーなさすぎか」


とにかく俺に怒りをぶつけたいらしいけど、その手段が思いつかないらしい名前は俺を無視することで落ち着きを取り戻した。それを満足気に眺めてみる。どうやって修正するかを考えているのか一向にこっちを見なくなってしまった。


「侑のせいでせっかく作ったうちわが台無しや……最悪」
「エヘヘ」
「褒めてへん」


また始まったで、というクラスメイトの声もお馴染みのもの。名前はヘラヘラと笑う俺を見て、大きなため息を吐いた。あ、こっち見た。


「せっかく侑のも作っとったのに…」
「え?それ、早よ言えよ!」


サムだけのやと思ったから子供染みた嫌がらせをしたというのに、俺のもあるんやったら無駄に怒らせただけやん。まぁ、楽しかったからソレはソレでええんやけど。
期待に満ちた俺の前に、名前は侑と書かれたウチワを取り出した。


「ちっさ!!ミニウチワやん!サムのよりめっちゃちっさいやん!」
「愛の大きさ、やな」
「ドヤ顔すんな!」


治のに比べたら三分の一程のミニマムなウチワに、今度は俺が立ち上がる。しかも油性マジックの細い方で書いてあるし、装飾もなんもない。明らかに手抜きや!コイツ、いっちょ前に俺のことおちょくっとるな…!

ニヤニヤしながらそのミニウチワで扇ぐ名前にチッと舌打ちすれば、おーコワッと大袈裟に肩を竦められた。全然思てないやろ!


「名前、覚えとけよ!このブタ!」


丁度チャイムが鳴り、担任が入ってくると騒がしかったクラスメイト達も大人しく定位置に戻っていく。響き渡った俺の声に、担任は「また喧嘩か」と呟いた。


「先生!宮くんが暴言吐いてくるんですけど!これって言葉の暴力ですよね?!」
「はぁ!?ブタにブタ言うて何が悪いんですかァ!?喧しブタ!」
「なんなん、このガキ大将!何とかしてくださいよ、先生!」


子供の喧嘩みたいになって、周りも名前派と俺派に分かれてついに賭けが始まった。俺と名前のこのやり取りは、クラスではよくそういう対象になる。負けた方が今日の掃除やで!と、教師が居るにも関わらず盛り上がっていた。


「ヒトに向かってブタはアカンで」


めんどくさそうな顔の担任に勝敗は委ねられている。名前始め、女子からはそうやそうや!と同調する声が上がった。


「というわけで、宮も名字も喧しいから後で職員室来ぃや」
「「ええ、何で!?」」
「あー、引き分けやったなぁー」


結果が分かればすぐに興味をなくし、次の喧嘩ではどっちが勝つか予想をし始めた。結局、俺と名前が損しただけやんか!脱力する俺と名前を無視し、教科書開けよーと言い放った。


推しメンは治
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