遅い。遅すぎる。時刻は午前11時20分。待ち合わせは午前10時。
今日はクロと映画を見に行くと約束していたのに、集合場所にクロが来ない。
電話も出ないし、メールも返事はないし、ラインも既読がつかない。
最初は怒りの気持ちが大きかったけど、段々と心配になってくる。
もうこうなったら家まで行って確かめようと、クロの部屋までやってきたのだけど私はこの怒りをどう抑えたらいいのか分からず逆に戸惑っていた。
「…」
「ちょっと、クロ!起きてよ!」
部屋に飛び込んでまず目に入ったのは、うつ伏せにベッドで寝ているクロ。
一瞬息してないんじゃ?と心配になったけど肩が上下していて安心した。
寝ているだけか、と息を吐いた後ふつふつと沸きあがる怒り。
まさか、寝坊?あんなに心配して家まで駆けつけた私の労力は一体?
約束を破るなんてことは今までなかったから、私も大目にみなきゃとは思う。
でも、1時間以上待ちぼうけを食らった挙句、寝坊でしたなんて…。
よくある、ごめん!寝坊して!と慌てて待ち合わせ場所にくるならまだいい。
でもこの男、今も寝ている…そして待たされた私が息を切らしてやってくるなんて逆でしょ!?
怒っていいよね、と思うもののまず相手を起こさなければ話にならない。
「クーロー!ちょっと、今何時だと思ってるの!」
「…」
「黒尾ークロオさーんクロクロクロ!もう、どんだけ寝るのよ!」
反応なし。クロは寝るときにうつ伏せプラス枕を頭の両側に当てる(包む?)という特殊な寝相をしているので、はっきり言って今本当に寝ているのか確証はない。
あまりにも無反応なので逆にタヌキ寝入りなのでは?と怪しくなってきた。
試しに私が枕をひっぱり抜こうと力を入れてみるも、何故か抜けない。
それどころかますます力がこもったのを見て、こいつ起きてるな…と確信した。
「ちょっと、クロ!起きてるよね!何、寝たふりしてんの!」
「…ぐおー」
「そんなあからさまなイビキかくわけないでしょーが!」
「すぴーすぴー」
「だからタヌキ寝入りバレてるって!」
棒読みのイビキで誤魔化そうとするクロに私の怒りのボルテージも上がる。
寝坊して迎えにこればタヌキ寝入りとか酷いわ!
枕も抜けないし、ゆすっても寝たフリ。
はやく起きろ!と一発頭にゲンコツを入れるとクロはとうとう顔を上げた。
相変わらず寝癖が凄い。
「いてー…」
「もう、クロのばか!今何時だと思ってんの!私がどんだけ心配したと思ってんの!」
「わりー…名前の足音で目が覚めた」
「じゃあ何で寝たフリすんのよ!」
「怒ってたし?」
私の怒りを恐れての行動だったとしても、もう少し他に何か仕様があったと思う。
怒りが治まらずクロに、私がどれだけ心配したかを怒り交じりにぶつけていればクロはニヤニヤしながら私をぎゅっと抱きしめた。
反省しているのかしていないのかは分からないけど、しきりにごめんと謝罪の言葉を呟くので私の怒りも治まっていく。
多分、まだニヤニヤしているんだろうけど私からはクロのうなじと襟足しか見えなかった。
「…言い訳があるなら聞くけど?」
「んー、ない。ごめん。ただ寝過ごした」
なんだそれ。そんなに潔く言われるとこちらも許すしかないじゃない。
クロずるい、と呟けば何が?と白々しい返答。
ちょっとむかついて背中をバシバシ叩くと頭をグリグリと撫で回された。
せっかくセットしたのに台無しだ。
「ちょっと、頭ぐちゃぐちゃになったじゃん」
「いいだろ、別に。髪がボサボサな名前でも好きだぜ」
「…もー、なんでそんな恥ずかしいこと言えるかな…」
「これがボクの本心です」
「…」
クロの顔が見えなくても、今すごくドヤ顔しているんだろう。
私が何も言わなければクロは何か言えよと呟いた。
「今日は許すけど、次寝坊したら許さないからね」
「気をつける。でも、万が一寝坊したらゲンコツじゃなくてキスで起こして欲しい」
だから何でそんな恥ずかしいことを…と聞けば、またしてもボクの本心ですと返された。
眠り王子の起こし方
「じゃあ仰向けで寝てね」
話はそれからだ。
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