見られている。
自意識過剰とか、気のせいとかじゃない。確実に私の背中に突き刺さる視線に居心地の悪さを感じる。昼食を食べ終え、友人たちと食後のおやつを広げて談笑しているというのに、一切話が頭に入ってこない。チラ、チラとたまに振り返って確認してみるとその都度隠れるモヒカン頭。教室の扉の窓から金髪のフサフサした髪の毛が見えていて、誰が私を見ているのか一目瞭然だ。私が前を向くと、また感じる視線に友人はおろかクラスメイトたちもざわざわとしている。

「ねぇ、名前…山本こっち見てない?」
「だよねぇ、何なんだろう?」
「コワッ…名前のこと見てるよ、何かしたの?」

眉を潜めて私に聞く友人に、私は分かんないと返事をする。
本当に何も思い浮かばない。山本くんとは同じクラスメイトとというだけで、他に接点はないはずだ。思い返してみても課題を集めるときに会話したことがある程度で、それ以外で特に話したこともない。彼が私を見つめる意味が全く分からなかった。
もしかして、告白じゃない?と面白がる友人にそんなわけないよ、と返しつつ少しだけドキッとした。もし、山本くんに好かれていたらどうしよう。モヒカンで目つきも悪くて女子の間では不良とか恐いとか言われているし、山本くんを恋愛対象として見たことがないから戸惑う。
好きでもないけど嫌いでもない。アリかナシかと言われれば…私の好みじゃないからナシかなぁ。と勝手に失礼なことを考えていた。
でも、やっぱり接点もない私を山本くんが好きになることはないと思うなぁ。もう一度後ろを振り返ると、山本くんとバッチリ目が合った。まさか目が合うなんて思っていなかった私はもちろん、山本くんも驚きに目を見開き、「ホァァアッ?!」と奇声を発している。
完全に隠れるタイミングを失って、明らかに挙動不審な山本くんに、廊下からは女子生徒の軽い悲鳴と、男子たちのからかう声が聞こえてちょっとだけ気の毒に思った。


「と、とりあえず私から言った方がいいよね?」
「うん、多分…明らかに名前のこと見てるしねぇ。やっぱ告白じゃない?」
「違うと思うけど、ちょっと行ってくる」
「気をつけてね!」

何に気をつけるのかは分からないけど、私は意を決して立ち上がった。休み時間中このままとか凄く居心地が悪いし、もしかしたら私が彼に何かしてしまったのかもしれない。気付かないうちに怒らせてしまったのなら謝っておきたい。
不審者扱いされている彼の元にたどり着くと、私に気付いた瞬間またしても奇声を発して後ずさった。もしかして、怖がられているのだろうか。

「あの、山本くん…違ってたらごめんなんだけど、私に用事、だよね?」
「あっ、その…あの、」
「ぷっ、山本がんばれー」
「うるせーぞコルァ!」

恐る恐る私が尋ねると、山本くんは真っ赤になって口ごもる。これは…照れている?やっぱり、私に告白だったのかもしれないと頭の片隅で考えていると、山本くんの様子をみてクラスの男子が冷やかしてきた。
私に対する態度とは違い、大きな声で言い返している。その姿こそ、いつもクラスで友達と話しているときの見慣れた山本くんだった。

「あ、すすすいません、大声だして!」
「ああ、うん、大丈夫。それより、場所変える?」
「あっ、ハイ、そうスね!ここじゃ、うるさいし」

依然、目は合わないけれど先程よりはいくらか落ち着いたようだ。それでもまだ緊張しているのは伝わってくる。いよいよ告白しかないだろう、そう思うと私も緊張してくる。とりあえず、ギャラリーが煩いので私たちは人気のない場所を探して歩き出した。何故か私が先を歩き、彼がソワソワしながら後ろをついてくる。
すれ違う同級生たちが、あの子山本のこと従えてない?とひそひそ話をしているのが聞こえて歩くスピードを早めた。


「ここならいいかな?」
「あっ、ハイ!だ、大丈夫!」

やってきたのは屋上に続く階段の踊り場だ。屋上は立ち入り禁止なので、この場所に来る人は少ない。山本くんに一応確認してみると、大きく頷いた。
そして流れる沈黙。山本くんの視線がキョロキョロと忙しなく動き回る。私もどう切り出せばいいのか分からずに黙っていた。
本当に、私のこと好きだったらどうしよう。何て返事をすれば彼を傷付けずに済むのだろう。やっぱり好みじゃないし、お断りするのは確定だ。ごめんなさい、がいいかなと決めたところで遂に山本くんが口を開く。

「あの、俺っ、前から名字さんのこといいなと思って、そのっ…」

ああ、やっぱり告白だった。何気に人生初の経験に、心臓はドクドクと脈打っている。
人から好かれるのはやはり嬉しい。例え何とも思っていない相手だとしても、私を見てくれて、いいなと思ってくれたんだと思うと心が温かくなる。真っ赤な山本くんにつられて私も頬が熱くなった。

「ば、バレー部のマネージャーやってくださいっ!」
「え?」

付き合ってくださいじゃなくて?と拍子抜けする私に、手を差し出してくる山本くん。どうみても交際を申し込んでいるようにしか見えない構図だ。
私、もしかして勘違いしてた?と気づくと途端に恥ずかしくなる。何が、どう断ろうだ、私。
紛らわしい山本くんも問題だけど、勝手に告白だと決めつけた自分を殴りたい衝動に駆られた。

「あの、山本くん…気持ちは嬉しいんだけど…私、もう部活入ってるんだ」
「ホァァア!!オーマイガーッ」
「わっ、ほんとにごめんなさい、だからそんなに落ち込まないで!」

期待に満ちた山本くんと目が合って、何とかしてあげたいと思う。でも、私は既に部活に入っているしマネージャーなんて向いてない。丁寧にお断りすると、途端に絶望的な顔をして膝から崩れ落ちた。

「夢の、夢の女子マネが…!」

今にも泣き出しそうにそう呟く山本くん。顔は恐いけど、性格はそんなに恐くないんだなと場違いなことを考えてしまった。
謎の罪悪感に苛まれつつ、私は何かいい方法がないか考える。何も思い付かなくて、私でよければ協力するからと声を掛けると、山本くんは勢いよく顔を上げた。泣いているのかと思えば、その顔はみるみるうちに明るくなっていく。
思いの外、爽やかな笑顔で私は今日初めて純粋に山本くん自身にドキドキした。

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