モテに必要なものって何だと思う?と目の前に座る及川徹が尋ねてきた。私の前の席に後ろを向いて座り、頬杖をついて私の顔をじっとみる。先ほど数学の時間が終わり、次の教科の準備をしていた私にとって非常に邪魔な存在である。
「ねー、なんだと思う?」
「私の邪魔をしないことじゃないかな」
「もー、ふざけてないでさ、真面目に答えてよ名前ちゃん」
「くそ真面目ですけど?」
やだ、コワーイ!とかわいこぶる及川の椅子を軽く一蹴りすると及川は大人しくなった。これが休み時間毎に繰り広げられるのだから、私だってそりゃ怖くもなるよ!及川以外には優しいんだよ、私。及川は私の威嚇なんてものともせず、相変わらず絡みまくってくる。
岩泉はやく来て!君の相棒が非常に面倒な絡み方をしてくるんだよ。
「んもー、名前ちゃんつれないなー」
「うるさいなー、興味ないもん」
「ちょ、こんな男前を目の前にして興味ないとか正気の沙汰じゃないよね!及川さんファンを敵にまわしたよね!」
こちらにしてみれば、ここまで邪険に扱われてケロッとしている及川の方が正気の沙汰じゃないけどな!
及川は鋼の心臓を持っているので私なんかの言葉では何も感じないらしい。そもそも、及川のファンはそんなことで敵になったりしない。そのファンの子達だってしっかり彼氏居るし、及川に冷たくしたところで怒るような子ではないので全然怖くないし。
どうしてもモテについて語りたいのか、及川はついに一人で喋り出した。
「まずは、見た目だよね!例えばー、及川さんみたいに?ハンサムでー、愛らしく、高身長!おまけに笑うとチャーミング!」
「見た目に拘るより、男なら中身でしょ」
「エッ!おれ、脱いだらすごいよ?!見て?ちょっと、見て!」
「そういうことでなく」
慌てて制服を脱ごうとする及川を止めて、中身って性格のことね!と付け加えた。誰が体つきのことを中身と言うんだろう。
及川はパッと表情を明るくして、続けた。
「中身なら、俺も完璧だし!レディファーストは当たり前だし、女の子に声を掛けられたらちゃんと笑顔で手を振るサービス精神に、何事もトップを目指すストイックさ!どう、こんな優しい及川さんに名前ちゃん惚れた?」
「でも、中学の時サーブ教えてくれって頼む後輩に舌出してバーカって言ってたんでしょ?岩泉が言ってた」
「岩ちゃん余計なことを!あれは将来ライバルになるかもしれない奴を育てるの嫌だったの!俺より上手くなったらムカつくし?」
「うわー、及川余裕なーい」
「むっ!そんなわけないじゃん、この間公式戦で叩き潰してやったし!」
「ますます心狭いな!私は男にも優しい男こそ本当に優しい人だと思うね」
わかってないな!話にならない!と用意した次の授業の教科書で及川の頭を小突いておいた。大して痛くないくせに大袈裟にリアクションする及川。もう一度、及川の椅子を軽く蹴ると何が嬉しいのかにへらと笑う。
ちくしょう、及川のせいで気づけばもう休み時間が終わる。何て不毛な会話をしてしまったんだ。
「もういいでしょ、及川にモテ要素はない。終わり!前向きなさい」
「いやいやいや、この及川さんこそ学校一のモテ男でしょ!なんで名前ちゃんは俺のこと好きになんないのー?」
「及川が私のこと別に好きじゃないからかな」
「俺、名前ちゃんのこと好きだよ」
全然そうは見えないけどね。チャイムが鳴ったので煩い及川を無理矢理前に向かせた。無駄にデカいから一苦労だ。
及川の言う通り見た目だけで言えばモテ男に違いないけど、私はそんなことはどうだっていい。
顔を上に向けて私の机に乗っける及川の額をシャーペンでつついた。
ミスターパーフェクト
何もかも優れて見える及川を本気にさせるにはどうすればいいだろう。
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