全てが終わった後というのは、想像以上に凄惨だった。天下を取り合った戦なのだから当たり前なのかもしれないが、私にはそう簡単に割り切れそうにない。足の踏み場もない程に転がっている兵士たちの亡骸と血が、どこか私に虚しさを与えるのだ。この中には私が奪ってしまった命もたくさんあり、同時に夢や希望、未来までも奪ってしまった。だけど、私はまだ生きている。私にはまだ未来がある。


「何故お主は泣くのかな?」
「家康殿!」


今は陥落した敵本陣から戦場を見渡していた私は、家康殿が近づいていたことに気づかなかった。そればかりか私が涙を流していたことさえも知らなかった。家康殿は後ろにいた護衛を少し遠ざけると、私の隣に立ち同じように戦場を見渡した。亡骸の着ている鎧や、そこら中に放り出された刀や槍に夕日が反射している。少しの沈黙の後、家康殿は静かに口を開いた。


「その涙は、悲しみからかな?」
「…分からないのです」
「…」
「ここで果てた沢山の命を奪っておきながら、私はのうのうと生きていてもいいのか」


戦なき世を目指し戦っていたはずなのに、振り返れば屍の山しかない。皆、目指す場所は同じはずだったのに。争い奪い辿り着いた先は、また屍の山。結局、大平の世というのは人の犠牲の上に成り立つのだ。その犠牲の上で私は笑っていてもいいのか。この人たちの無念は、一体どこへ行くというのだろう。


「貴殿はお優しいですな。わしは、この戦で死んだものに感謝こそすれど、哀れんだりはせぬ。大平の世を築くためには必要なことなのじゃ」
「そんな…そんなの命を懸けて戦ったものに失礼ではないでしょうか!」
「何故かな?皆、覚悟を決めて戦った。そして死んだものは生きているものに希望を託し逝くのじゃ。そこに哀れみは無用。武士たるもの戦場で死ぬことは本望ですぞ」


返す言葉が見つからず、俯いていると家康殿は続けて言った。先程と違い、憂いを帯びた声音だった。


「だからこそ、今生きている者は死んだ者の業を背負わねばならん。託された未来を繋げねばならぬのじゃ」
「未来を…繋ぐ」
「左様、大平の世を築くことこそがわしらに課せられた使命よ。それにはあと少し、戦をせねばならん」


手伝ってくださるかな?と問われ、私は頷いた。たとえまた屍の山を築くことになっても、私はただひたすら前に進まなければならない。奪ってしまった未来を私が次に繋げなければならないのだ。ごめんなさい。そしてありがとう。ここで散ってしまった命も、無念も全部背負い受けよう。それがせめてもの償いだと思うから。


重き荷
全ての想いを背負う家康殿に、私は天下人の器を見た。

back
ALICE+